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BCP(事業継続計画)を作るとき、「自社の地域で何が起きるのか」を調べる場面が必ず来ます。ところが探し始めると、国が出しているものと県が出しているものがあり、同じ地震なのに数字が違う。資料は数百ページある。どこから手を付ければいいのか分からなくなります。
この記事では、どこで探し、何を拾い、どこまでで切り上げてよいかを整理します。地域ごとの具体的な数字は載せません。数年で更新されるものなので、記事のほうが先に古くなるからです。
この記事でわかることは、次の5点です。
- 探す場所は、中小企業庁の手引きで4つ案内されている
- 最初に拾う情報を絞れば、資料を通読する必要はない
- すべての災害を網羅する必要はなく、自社への影響が大きいものから考えればよい
- 拠点が複数あっても、事業継続力強化計画では拠点ごとの詳細な被害想定までは求められていない
- どの資料から取った数字かを書き残しておくことが重要
探す場所は、国が4つ案内している
中小企業庁の「事業継続力強化計画策定の手引き」では、災害の危険度を調べる先として、各自治体のホームページ、国土交通省の川の防災情報、同省のハザードマップポータルサイト、そして地震ハザードステーション(J-SHIS)が案内されています。
4つの入口
検索して出てきたまとめサイトを読むより、この4つを直接開くほうが、情報の出どころを確認しやすくなります。
| 入口 | 出しているところ | 分かること |
|---|---|---|
| 各自治体のホームページ | 市区町村・都道府県 | 自社の市町村の浸水想定、避難場所、地域ごとの被害想定 |
| ハザードマップポータルサイト | 国土交通省 | 洪水、土砂、高潮、津波などの想定区域を地図で重ねて見られる |
| 川の防災情報 | 国土交通省 | 河川の水位、雨量、洪水の予報など |
| J-SHIS 地震ハザードステーション | 防災科学技術研究所 | 今後30年以内に一定の震度以上の揺れに見舞われる確率など |
なぜ「まとめサイト」ではだめか
民間のまとめ記事に載っている数字は、古い版のまま更新されていないことがあります。
被害想定やハザードマップは更新されることがあるため、数字だけを見るのではなく、どの自治体・どの機関が公表した、いつ時点の資料なのかまで確認することが重要です。
もうひとつ、後で触れますが、どの資料から取った数字かを自分で書き残しておく必要があります。出どころが分からない数字を使うと、あとから計画を見直すときにも困ります。
拾うのは、まず3項目
中小企業庁の手引きでは、地震については予想される震度や津波の予想高さ、水害については浸水の予想高さなどを具体的に記載することが示されています。まずは、BCPを考えるうえで特に重要な情報から拾っていきます。
3項目と、その使い道
| 拾うもの | どこで見るか | BCPのどこに使うか |
|---|---|---|
| 揺れの強さ(予想される震度) | 自治体の被害想定、J-SHIS | 建物や設備の固定、倒れて通れなくなる場所の洗い出し |
| 浸水の有無と深さ | 国土交通省のハザードマップ、自治体が出している地図 | 設備を置く階、在庫の置き場所、電源の位置 |
| ライフラインへの影響・復旧見込み | 自治体・国の被害想定の本文 | 備蓄の日数、代替手段が必要かどうか |
最初から被害想定の資料をすべて読む必要はありません。資料は数百ページに及ぶこともあるため、まず自社の事業に影響する情報を拾い、必要な部分だけ詳しく確認するほうが実務的です。
ライフラインの復旧見込みから備えを組む方法は「首都直下地震で会社は何日止まるか|ライフライン別の目安」で、首都直下を例に扱いました。考え方は他の地域でも参考になります。
書き方の型も示されている
中小企業庁の手引きには、申請書にどのように記載するかの例も載っています。たとえば、今後30年以内に震度6弱以上の地震が起きる確率と、その参照資料としてJ-SHISを記載する、水害については浸水の予想高さと参照した市町村のハザードマップを記載する、といった形です。
数字と、その出どころを並べて1行にする。この型は、認定を取る予定がなくても、自社のBCPを整理するときに使いやすい方法です。
見る場所は3か所ある
確かめるのは自社の所在地だけでなく、主要な取引先の所在地と、物流の経由地も含めて考えると、事業への影響を把握しやすくなります。
自社が無事でも止まる
自社の建物が無事でも、仕入先や配送の経路が被災すれば事業は止まります。これはこの記事の整理ですが、被害想定を見る目的を「自社がどうなるか」だけにすると、サプライチェーン側の被害を見落とす可能性があります。
取引先が別の県にあるなら、その県の想定を見ることになります。県をまたぐと資料の作りも変わるので、同じ項目を探すのに少し手間がかかりますが、確認するポイントをそろえて見ていくと整理しやすくなります。
取引先を巻き込むところまで進める場合の進め方は「サプライチェーンのBCP|取引先と1つの計画を作るとき合意する範囲」に整理しました。


指定された地域に入っているかも確かめる
南海トラフ地震については、国が推進地域と津波避難対策特別強化地域を指定し、市町村の一覧と地図を公表しています。自社の所在地が対象地域に入っているかどうかも、確認しておきたいポイントです。
南海トラフ地震臨時情報については「南海トラフ地震臨時情報|企業は休むべきか、判断の基準」に整理しました。
全部を網羅しなくてよい、と書かれている
中小企業庁の手引きでは、事業継続に必要な拠点について、事業活動に甚大な影響を与える可能性が高い自然災害を一つ以上想定すればよく、すべての自然災害を網羅する必要はないとされています。また、複数の拠点を持つ場合でも、個々の拠点ごとの詳細な被害想定までは不要とされています。
ここで手が止まる人が多い
地震も水害も土砂も高潮も雪も、と全部を調べようとすると終わりません。
まずは、自社の事業に大きな影響を与える可能性がある災害を1つ以上選び、その災害について必要な情報を整理する。これが最初の一周です。
もちろん、実際のBCPでは1つに限定する必要はありません。最初の段階で対象を絞り、その後、必要に応じて対象を広げていくほうが進めやすくなります。
拠点が多い会社への整理方法
拠点ごとに詳細な被害想定を作ることが求められているわけではありません。
とはいえ、止まると事業が回らない拠点は決まっているはずです。工場、倉庫、基幹のシステムを置いている場所など、事業継続に重要な拠点については、必要に応じて個別に確認する。この切り分けが現実的です。
これはこの記事での実務上の整理です。
数字の出どころを書き残す
中小企業庁の手引きでは、ハザードマップ等の根拠資料が記載されていない場合は、内容の修正が必要になる旨が示されています。数字と出どころを対にして記録しておくことが重要です。
認定申請でも確認される項目
認定を申請する場合、数字だけを書いて出どころを記載していなければ、修正が必要になることがあります。
ここは読み飛ばしやすいのですが、実務への効き目が大きい部分です。
認定を取らない会社にも効く
出どころを書き残しておくと、数年後にその想定が更新されたとき、自社の計画のどこを見直せばよいかが分かりやすくなります。逆に、数字だけ書いてあると、その数字がいつの、どの資料のものか分からなくなります。
最低限、資料名と公表年月、開いたページの見出しを残してください。3行で済みます。
BCPを見直す引き金については「BCPの見直しはいつ・何をきっかけに?」に整理しました。
国と都道府県で、粒度が違う
被害想定は、国が広域的な被害の見積もりを公表する一方、都道府県がそれぞれの区域について、より地域に即した被害想定を公表している場合があります。
どちらを見るか
| 国の想定 | 都道府県の想定 |
|---|---|
| 広域的な被害の全体像を把握する | 自社の所在する地域の被害を確認する |
| 複数の都府県にまたがる災害の規模感をつかむ | 市町村ごとの被害想定など、地域に即した情報を確認する |
| 全国・広域的な視点で見る | 自社の所在地や周辺地域に引きつけて見る |
市町村の数字が要るなら、自治体の資料を確認する
自社の所在地で具体的な被害を確認したい場合は、都道府県や市区町村が公表している被害想定やハザードマップを確認します。
自治体が独自の被害想定を公表していない場合は、国の広域的な想定を見ることになります。その場合でも、ハザードマップポータルで浸水の想定を確かめたり、J-SHISで地震の揺れの確率を確認したりすることで、自社の地域について必要な情報を補うことができます。
同じ地震でも数字が違う理由
国と県で数字が食い違って見えることがありますが、想定しているケースや前提条件、集計の単位などが違う場合があります。
大事なのは、いま見ている数字が「どのケースの、どの範囲の、いつ時点のものか」を確かめることです。ここでも、出どころを書き残すことが重要になります。
最大の数字だけを見ない
高知県は、最大クラスの地震・津波について、発生する確率は極めて低いとしたうえで、それでもこうしたことが起こり得ることを念頭に置く必要がある、という趣旨を示しています。
ケースは1つではない
地震の起き方によって被害の出方は変わります。都道府県の公表資料には、最大のケースとは別に、ケースごとの一覧が用意されていることがあります。
最大の数字だけを取り出して社内で話すと、特定の想定だけが強く印象に残ることがあります。かといって小さいケースだけを見るのも適切ではありません。複数のケースがあることを知ったうえで、どのケースをBCPの前提として使うかを決めることが重要です。
二段構えにする
確率が低いことと、備えなくてよいことは別です。ただし、最大ケースだけを唯一の前提にすると、必要な対策の範囲が大きくなり、計画づくりが進みにくくなることもあります。
実務では、最大ケースで「起こり得ることの幅」を知り、そのうえで自社の事業継続に必要な水準を決める、という考え方があります。これはこの記事での実務上の整理です。
「対策後」の数字を探す
高知県の公表資料には、市町村ごとの最大の被害と並んで、対策を行った場合の被害を示した一覧が用意されています。
ここが社内で使いやすい
被害想定というと、大きな数字が並んでいて、対策を考える前から圧倒される資料に見えることがあります。
しかし、対策後の数字が併記されていれば、どのような対策によって被害がどの程度減少すると想定されているのかを見ることができます。
社内でBCPの必要性を説明するときも、最大被害の数字だけではなく、「対策をするとどこまで被害を減らせると想定されているのか」を見ることで、対策の意味を考えやすくなります。
自社に引き直す
行政の資料が示す「対策」は、建物の耐震化や避難の早期化といった地域全体の話です。そのまま1社の施策にはなりません。
ただ、被害想定を「何もしなければどうなるか」だけで終わらせず、「どの対策で被害をどこまで減らせるか」という視点で見ることは、自社のBCPを考えるうえでも参考になります。
想定は、前提の積み重ねである
東京都の被害想定の報告書は、数値にした部分は複数の前提を重ねて計算したものであり、起こり得る被害のすべてを示したわけではないとしています。
資料自身がそう書いている
この一文は、資料の信頼性を下げるものではありません。どこまでが計算で示せる範囲なのかを明示しているという意味で、被害想定の性質を理解するために重要です。
被害想定は、自社の条件に当てはめて考えるための材料です。書かれている数字がそのまま自社の被害になるわけではありません。数字そのものだけでなく、「何が起きると書いてあるか」を拾うほうが実務に使いやすくなります。
古い版を見ていないか確かめる
高知県は、前回の報告以降に得られた新しい知見と、国が行った地震モデル・推計手法の見直しを踏まえて、予測をやり直したとしています。
国と自治体、それぞれの更新を確認する
国や都道府県では、新たな知見や想定手法の見直しなどを踏まえて、被害想定が更新されることがあります。
そのため、「国の資料が更新されたあとに、必ず県が更新する」という単純な順番で考えるのではなく、それぞれの公表元で最新の版を確認することが重要です。
検索して最初に出てきた資料が最新とは限りません。公表ページで、いつの版かを確かめてください。
更新されたら、計画の前提も変わる
想定が更新されれば、自社の計画の前提も変わり得ます。出どころを書き残しておけば、更新されたときに直す場所がすぐ分かります。ここでも、記録が効いてきます。
最初の一周を、短く終わらせる
1. 影響が大きい災害を1つ以上決める
地震か、水害か、土砂か。最初から全部やろうとしないことです。
中小企業庁の手引きでも、事業活動に甚大な影響を与える可能性が高い自然災害を一つ以上想定すればよく、すべての自然災害を網羅する必要はないとされています。
2. 4つの入口のどれかを開く
浸水なら国土交通省のハザードマップポータルや自治体のハザードマップ、地震の確率ならJ-SHIS、市町村ごとの被害想定なら自治体のページ。まずは公的な情報源から入ります。
3. 必要な情報を書き写す
揺れの強さ、浸水の有無と深さ、ライフラインへの影響・復旧見込みなど、BCPに使う情報を拾います。全部を読む必要はありません。
4. 出どころを3行で残す
資料名、公表年月、開いたページの見出し。これを数字の横に書きます。認定申請をする場合は、根拠資料の記載が必要になるため、最初から残しておくと後で困りません。
被害想定は、読んで不安になるための資料ではありません。備えの日数や優先順位を決めるための材料です。
最初は必要な情報に絞って確認し、より詳しい想定が必要になった段階で資料に戻ってくれば十分です。
よくある質問
Q. 自社の地域の被害想定はどこで調べればよいですか
A. 中小企業庁の「事業継続力強化計画策定の手引き」では、各自治体のホームページ、国土交通省の川の防災情報とハザードマップポータルサイト、地震ハザードステーション(J-SHIS)が案内されています。市町村単位の被害想定が必要な場合は、都道府県や市区町村の公表ページも確認します。
Q. すべての災害について調べる必要がありますか
A. すべてを最初から網羅する必要はありません。中小企業庁の手引きでは、事業活動に甚大な影響を与える可能性が高い自然災害を一つ以上想定すればよく、すべての自然災害を網羅する必要はないとされています。
Q. 被害想定の数字はそのまま自社の被害になるのですか
A. いいえ。東京都の被害想定の報告書は、数値にした部分は複数の前提を重ねて計算したもので、起こり得る被害のすべてを示したわけではないとしています。自社の立地や建物、設備、事業内容などに当てはめて考える材料として使うことが重要です。
Q. 調べた数字は、どう記録すればよいですか
A. 中小企業庁の手引きでは、ハザードマップ等の根拠資料が記載されていない場合は、内容の修正が必要になる旨が示されています。数字と出どころを対にして、資料名と公表年月などを添えて残してください。
出典
- 中小企業庁「事業継続力強化計画」内「事業継続力強化計画策定の手引き」(2026年2月18日更新)
- 中小企業基盤整備機構「どんな災害が起こりうるの? ~ハザードマップを見てみよう|「事業継続力強化計画」(単独型)の作り方」
- 東京都防災会議「首都直下地震等による東京の被害想定」
- 高知県「地震・津波の被害を減らすために」
- 高知県「地震・津波による各ケースの被害一覧(高知県全体)」
- 高知県「各市町村の最大・対策後被害一覧(死者数最大ケースにより記載)」
参考:国土交通省ハザードマップポータルサイト / 川の防災情報 / J-SHIS 地震ハザードステーション
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