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BCP(事業継続計画)の話を社内に持っていくと、「作って、それで何が変わるのか」と聞かれることがあります。
これは、実際にBCPを策定していない企業が抱えている疑問でもあります。内閣府の令和7年度調査では、BCPを策定する予定がない企業の理由として、「策定後の効果が不明」を16.7%が挙げています。
では、実際にBCPを策定した企業は、どのような効果を挙げているのでしょうか。
2024年版「中小企業白書」に掲載された帝国データバンクの調査を見ると、上位には「従業員のリスクに対する意識が向上した」「事業の優先順位が明確になった」「業務の定型化・マニュアル化が進んだ」「業務の改善・効率化につながった」といった項目が並んでいます。
この記事では、この数字をもとに、BCPを作ることで平時の会社にどのような変化が起きているのかを整理します。
この記事でわかることは、次の4点です。
- BCPを作る予定がない企業の16.7%が「策定後の効果が不明」を理由に挙げている
- BCPを策定した中小企業が挙げた効果の上位には、平時の業務に関係する項目が並んでいる
- 1位は「従業員のリスクに対する意識が向上した」で51.6%
- 2位から4位は、優先順位の明確化・手順の整備・業務の改善・効率化だった
「効果が分からない」は、理由の上位に入る
内閣府が令和8年3月に公表した「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」では、BCPを策定する予定がない企業に、その理由を尋ねています。
その中で「策定後の効果が不明」と答えた企業は16.7%でした。
16.7%が、効果の不明を理由に挙げた
「策定する人材が確保できない」36.4%、「策定に必要なスキルやノウハウがない」32.6%などと比べると割合は低いものの、「策定後の効果が不明」も、BCPを策定しない理由の一つとして挙げられています。
一方、「BCPは重要と考えていない」は6.7%でした。
この調査結果だけから企業の考え方を一括りにはできませんが、「BCPの重要性は理解していても、策定によって何が変わるのか分からない」という企業が一定数いることは読み取れます。
「効果が不明」に、どう答えるか
BCPの効果を説明するとき、「災害が起きたときに会社を守るため」という説明だけでは、実際に災害が起きなければ効果を確認できないように感じるかもしれません。
そこで参考になるのが、すでにBCPを策定した企業が実際に挙げている効果です。
2024年版「中小企業白書」に掲載された帝国データバンクの調査では、BCPを策定した中小企業が挙げた効果として、平時の業務にも関係する項目が上位に並んでいます。
作った会社が挙げた効果は、災害の話だけではなかった
2024年版「中小企業白書」に掲載された帝国データバンクの2022年5月調査では、BCPを「策定している」と回答した中小企業に、策定したことによる効果を尋ねています。
4つの答え
中小企業が挙げた上位4つは、次のとおりです。
| BCPを策定したことによる効果 | 回答した割合 |
|---|---|
| 従業員のリスクに対する意識が向上した | 51.6% |
| 事業の優先順位が明確になった | 30.6% |
| 業務の定型化・マニュアル化が進んだ | 28.7% |
| 業務の改善・効率化につながった | 25.5% |
この調査は、帝国データバンクが2022年5月に実施したものです。全国25,141社を対象に11,605社から回答を得て、そのうちBCPを「策定している」と回答した企業2,058社に効果を尋ねています。複数回答なので、合計して100%にはなりません。
4つとも、平時の会社にも関係する
上位4項目を見ると、「被災後の復旧が早くなった」といった直接的な災害対応だけが並んでいるわけではありません。
従業員のリスクへの意識、事業の優先順位、業務手順、業務効率という、平時の経営や業務にも関係する項目が並んでいます。
BCPという言葉からは、地震や水害、停電などの非常時を想像しやすいものです。しかし、実際に策定した企業が回答した「効果」には、平時の業務改善につながる内容も含まれています。
BCPの効果を考えるときは、「災害が起きたときに何ができるか」だけでなく、「作る過程で自社の仕事をどこまで整理できるか」という視点も持っておくと、内容が分かりやすくなります。

1位が「従業員の意識が向上した」である意味
BCPを策定した中小企業が挙げた効果の1位は、「従業員のリスクに対する意識が向上した」で51.6%でした。
一方、内閣府の令和7年度調査では、リスクへの対応を進めるうえでの課題として「自社従業員への取組の浸透」が全体の86.2%で最も多く挙げられています。
最も多い効果と、最も大きな課題が同じ場所にある
2つの調査は、対象や設問が異なるため、単純に比較することはできません。
ただ、「BCPを策定した企業が感じた効果」の1位が従業員のリスク意識の向上である一方、「リスク対応を進めるうえでの課題」の1位が従業員への取組の浸透となっている点は、BCPを考えるうえで参考になります。
BCPは計画書を作って終わりではなく、従業員がその内容を理解し、実際に行動できる状態までつなげることが重要です。
計画書を作るだけで終わらせない
BCPを策定するときには、どの業務を優先するのか、誰が判断するのか、どの設備や情報が必要なのかなどを関係者で確認することになります。
その過程で、自社の業務やリスクについて共通認識を持つきっかけが生まれることがあります。
ただし、今回の調査は「BCPの策定によって従業員の意識が向上した」と企業が回答したものであり、「計画作成に何人参加したか」「外部に委託したか」などによって効果がどの程度変わるかまで調べたものではありません。
そのため、「社内で作れば必ず効果が高い」「外部に委託すると効果が出ない」といった一律の判断はできません。
作成の支援を受ける場合も、社内で確認する
外部の専門家や支援機関から助言を受けながらBCPを策定する方法もあります。
その場合でも、重要な業務は何か、誰が判断するのか、どの設備や取引先が止まると困るのかといった内容は、自社の関係者が確認しておくことが重要です。
完成した計画書だけを受け取るのではなく、自社の状況を確認する過程にも関係者が参加することで、計画の内容を共有しやすくなります。
2位から4位は、平時の業務改善につながる項目
帝国データバンクの調査で、2位は「事業の優先順位が明確になった」30.6%、3位は「業務の定型化・マニュアル化が進んだ」28.7%、4位は「業務の改善・効率化につながった」25.5%でした。
事業の優先順位が明確になった(30.6%)
災害が起きると、すべての業務を通常どおり続けることが難しくなる可能性があります。
そのためBCPでは、限られた人員や設備をどの業務に優先して投入するのかを整理します。
この優先順位は、非常時だけでなく、平時に人手が不足した場合や、複数の業務が重なった場合などにも、判断材料として使うことができます。
業務の定型化・マニュアル化が進んだ(28.7%)
災害時に担当者が出社できない場合、別の人が業務を引き継ぐ必要があります。
そのためには、担当者しか知らない手順を整理し、他の人でも確認できる状態にしておく必要があります。
こうした作業は、災害対応だけでなく、通常の引き継ぎや新人教育にも利用できます。
業務の改善・効率化につながった(25.5%)
業務の手順を一つずつ確認すると、重複している作業や、特定の担当者に集中している作業などが見つかることがあります。
BCPのために業務を整理した結果として、平時の業務改善につながる可能性があるということです。
3つに共通するのは、業務の棚卸し
「優先順位」「マニュアル化」「効率化」という3つの効果には、自社の業務を一度整理して、どこに問題があるのかを確認するという共通点があります。
BCPを作るときは、災害時の対応だけを見るのではなく、普段の仕事を一度棚卸しする機会として捉えることもできます。
社内で通すときは、「防災」だけで説明しない
BCPの策定を社内で提案するとき、「大規模災害に備えるため」という説明だけでは、費用や人員を確保しにくい場合があります。
そこで、BCPを策定した企業が実際に挙げた効果を、説明材料の一つとして使うことができます。
「もし被災したら」だけで終わらせない
BCPは、実際に災害が発生しなければ必要性を実感しにくい取り組みでもあります。
だからこそ、「災害時に会社を守る」という目的に加えて、「業務の優先順位を整理する」「手順を標準化する」「業務を見直す」といった平時の目的も含めて説明すると、自社にとっての意味を整理しやすくなります。
費用だけでなく、何が残るかを見る
BCPの策定費用を考えるときは、計画書そのものだけを見るのではなく、策定の過程で何を整理できるのかも確認しておくとよいでしょう。
業務一覧、優先順位、連絡先、代替手段、マニュアルなど、BCPの策定に合わせて整理した情報は、平時の業務にも活用できる可能性があります。
ただし、これらが必ず業務改善やコスト削減につながるわけではありません。自社の業務内容や、実際にどこまで見直しを行うかによって変わります。
この数字を読むときの注意
ここまで紹介した51.6%、30.6%、28.7%、25.5%という数字は、帝国データバンクが2022年5月に実施した調査を、2024年版「中小企業白書」が掲載したものです。
出どころは民間の調査
数字が掲載されているのは中小企業白書ですが、調査を実施したのは株式会社帝国データバンクです。
政府が独自に実施した統計調査ではないため、引用するときは「2024年版中小企業白書によると」だけでなく、「帝国データバンクの調査を中小企業白書が掲載している」と理解しておくと正確です。
BCPを策定した企業だけの回答
効果について回答したのは、BCPを「策定している」と回答した企業です。
BCPを策定していない企業や、策定途中でやめた企業に同じ質問をした結果ではありません。
したがって、「すべての企業がBCPを作れば、この割合で効果が出る」という意味の数字ではありません。
複数回答である
この設問は複数回答です。
1社が「従業員の意識が向上した」と「業務の改善・効率化につながった」の両方を選ぶことができます。そのため、51.6%と30.6%を足して「82.2%の企業が効果を得た」と読むことはできません。
「効果がある」だけでなく、何が変わったかを見る
BCPを作ったことによる効果を考えるとき、「効果があるか、ないか」の二択だけで見る必要はありません。
今回の調査では、BCPを策定した中小企業が感じた変化として、従業員のリスク意識、事業の優先順位、業務の定型化・マニュアル化、業務改善・効率化などが挙げられています。
自社でも同じような変化が起きているかを確認してみると、BCPの見直しにもつながります。
自社で確かめる、3つの問い
すでにBCPがある会社は、次の3つを確認してみてください。
1.従業員が、何をすべきか説明できるか
災害が起きたときの役割や連絡方法について、担当者以外の従業員も説明できるでしょうか。
内閣府の令和7年度調査では、「自社従業員への取組の浸透」がリスク対応の課題として86.2%と最も多く挙げられています。
計画書を保管しているだけでなく、実際に従業員へ伝わっているかを確認することが重要です。
2.優先順位を、実際の業務で使えるか
「災害時に優先する業務」が決まっていても、具体的な判断に使えなければBCPは機能しません。
どの業務を優先するのか、必要な人員や設備は何か、代替手段はあるかを確認してみましょう。
3.整理した手順を、平時にも使っているか
BCPを作る際に整理した業務手順やマニュアルが、災害時だけの資料になっていないか確認します。
引き継ぎや新人教育など、平時にも利用できるものがあれば、BCP策定時に整理した情報を有効に活用できます。
BCPの策定率や、現在の企業の取り組み状況については、BCPの策定率は?業種別の実態と最初の一歩で詳しく整理しています。
備えの重さを、金額だけで考えない
BCPの効果を考えるとき、災害によって発生する損失を金額で想定することもあります。
一方で、被害額を事前に正確に見積もることは簡単ではありません。
令和6年能登半島地震の被害額
2024年版「中小企業白書」では、令和6年能登半島地震による石川県、富山県、新潟県のストック毀損額について、約1.1兆円から2.6兆円という推計を掲載しています。
これは、建物や設備などのストックについて推計した被害額です。幅のある推計であることにも注意が必要です。
自社の被害額を正確に予測するというより、「被災すると事業にどの程度の影響が出る可能性があるのか」を考える材料として見るのが適切です。
被災地域では、複数の事業所が同時に影響を受ける
大規模災害では、自社だけでなく、仕入先、物流会社、取引先なども同時に被災する可能性があります。
そのためBCPでは、「自社が被災したらどうするか」だけでなく、「取引先や物流が止まったらどうするか」も考えておく必要があります。
金額だけでなく、何を先に戻すかを決める
被害額を事前に正確に決められなくても、復旧の優先順位は事前に決めることができます。
どの業務を優先するのか、どの設備を先に復旧させるのか、どの取引先との連絡を優先するのか。
こうした順番を決めておくことが、BCPの重要な役割の一つです。
よくある質問
Q. BCPを作ると、どんな効果がありますか?
A. 帝国データバンクの2022年5月調査では、BCPを策定した中小企業が挙げた効果として、「従業員のリスクに対する意識が向上した」51.6%、「事業の優先順位が明確になった」30.6%、「業務の定型化・マニュアル化が進んだ」28.7%、「業務の改善・効率化につながった」25.5%などが挙げられています。
Q. BCPの効果は、災害が起きないと分からないのですか?
A. そうとは限りません。BCPを策定した企業が挙げた効果には、従業員のリスク意識、事業の優先順位、業務のマニュアル化、業務改善など、平時の業務にも関係する項目が含まれています。ただし、これらは企業自身が「効果」として回答した結果であり、すべての企業に同じ効果が生じることを示すものではありません。
Q. BCPは社内だけで作る必要がありますか?
A. 必ずしもそうではありません。外部の専門家や支援機関から助言を受けながら策定することもできます。ただし、自社の重要業務や優先順位、必要な人員・設備などについては、自社の関係者が内容を確認し、共有しておくことが重要です。
Q. BCPを作ったら、そこで終わりですか?
A. いいえ。計画を作った後も、訓練や見直しを通じて、実際に機能するかを確認することが重要です。内閣府の令和7年度調査でも、リスク対応を進めるうえで「自社従業員への取組の浸透」が大きな課題として挙げられています。
出典
- 株式会社帝国データバンク『事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2022年)』(2022年5月)
- 中小企業庁『2024年版 中小企業白書』
- 内閣府(防災担当)『令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査』(令和8年3月)
- 内閣府(防災担当)『令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査結果(概要)』(令和8年3月)
