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大阪の会社がBCP(事業継続計画)で被害想定を使うとき、先に知っておきたいことがあります。大阪府の被害想定は、2026年9月時点で見直しの途中です。
揺れの強さ、液状化、津波で浸かる範囲は、令和8年3月31日に新しい想定が公表されました。一方で、建物が何棟壊れるか、電気や水道がどれだけ止まるかといった被害の数字は、直下型地震が平成19年、南海トラフ巨大地震が平成25年に算出したものが、いまも府の公表資料です。
BCPを作ったり見直したりしている担当者は、新しい図と古い数字を一緒に扱うことになります。この記事では、大阪府の公表資料をもとに、どの資料で何を確かめればよいか、見直しが終わるまでBCPに何を書き残しておくかを整理します。
この記事でわかることは、次の5点です。
- 大阪府の被害想定の、どこが新しく、どこが見直し中か
- 自社の場所の揺れ・液状化・津波を確かめる資料と、その注意点
- いま公表されている6つの地震の被害の大きさ
- 南海トラフ巨大地震で、電気・水道・ガス・電話が戻るまでの目安
- 見直しの途中で、BCPに書き残しておくこと
いまの大阪府の資料は、新しいものと古いものが混ざっている
大阪府の「被害想定・地震対策」のページには、2026年9月時点で次の4つが並んでいます。
| 資料 | 時期 | 状態 |
|---|---|---|
| 震度分布・液状化可能性(南海トラフ地震と直下型地震) | 令和8年3月31日公表 | 見直し済み |
| 津波浸水想定 | 令和8年3月31日公表 | 見直し済み |
| 直下型地震の被害想定 | 平成19年3月算出 | 見直し中 |
| 南海トラフ巨大地震の被害想定 | 平成25年10月算出 | 見直し中 |
見直しは、大阪府防災会議に令和5年6月に置かれた「地震津波災害対策等検討部会」で進められています。府のページによると、平成19年と平成25年の被害想定を、対策の成果や人口構造などの社会の変化を踏まえて見直すための部会です。令和8年3月18日の第6回では「被害想定の算定」が議題になり、その資料も公開されています。
ただし、部会の資料は検討の途中のものです。府が新しい被害想定として公表したものではないので、BCPに使う数字としては、いまの公表資料を基本にします。
自社の場所の揺れ・液状化・津波は、新しい図で確かめる
令和8年3月31日の見直しで、自社の拠点が「どれくらい揺れるか」「液状化しやすいか」「津波で浸かるか」は、新しい図で確かめられるようになりました。
震度分布と液状化可能性
大阪府の「震度分布・液状化可能性(令和8年3月31日公表)」は、内閣府が令和7年3月に公表した南海トラフ地震の想定などを踏まえ、地盤の条件を府が独自に作ったものに置き換えて見直したものです。南海トラフ地震と、直下型地震5つ(上町断層帯の北側・南側、生駒断層帯、有馬高槻断層帯、中央構造線断層帯)について、全体図と詳細図があります。
府は、使うときの注意も書いています。推計は250mの区画ごとの平均的な地盤で行っているので、個々の事業所の揺れや液状化とは必ずしも一致しません。地盤改良は考えていません。液状化の可能性が低いとされた場所でも、液状化が起きないとまでは言えない、としています。
また、これらの図は、最新の知見で考えられる最大級の地震を想定したもので、こうした巨大地震が起きる確率は極めて低く、次に起きる地震の被害を示すものではない、とされています。
津波浸水想定
津波浸水想定は、前回からおよそ10年がたち、地形のデータや防潮堤の耐震化などの条件が変わったため見直されました。南海トラフ巨大地震の4つのケースに加えて、海の中にある大阪湾断層帯も検討の対象になりました。ただし、大阪湾断層帯で南海トラフ地震より浸水の範囲が広がるのは、関西空港だけだったとされています。
解説には、会社が拠点の備えを考えるうえで見落としやすい点が、いくつも書かれています。
- 地下街や地下鉄などの地下空間に水が入ることは、図には反映されていない
- 大阪市内を中心とする地盤の低い地域では、防潮堤が壊れていると、津波が収まったあとも毎日の潮の満ち引きで浸水が広がるおそれがある。地盤沈下や液状化で、長い間水が引かないこともある
- 図で色が塗られていない場所でも、安全とは限らない
府は、この想定はハザードマップそのものではないとして、避難には市町が作るハザードマップを使うよう書いています。また、市町のハザードマップに多く載っている「1mの津波が届く時間」と、気象庁が発表する津波到達予想時間(潮位の変化が始まる時間)は、考え方が違うとしています。避難の手順に時間を書くときは、どちらの時間なのかを添えておきます。
被害の数字は、いまの公表資料を出どころ付きで使う
大阪府は、検討部会の資料「現在公表している被害想定について」で、いま公表している6つの地震の被害を1つの表にまとめています。その一部を並べます。
| 地震 | 建物全壊 | 死者 | 停電 | 水道断水 | 算出 |
|---|---|---|---|---|---|
| 上町断層帯地震(A) | 363千棟 | 13千人 | 200万軒 | 545万人 | 平成19年3月 |
| 上町断層帯地震(B) | 219千棟 | 6千人 | 60万軒 | 372万人 | 平成19年3月 |
| 生駒断層帯地震 | 275千棟 | 10千人 | 89万軒 | 490万人 | 平成19年3月 |
| 有馬高槻断層帯地震 | 86千棟 | 3千人 | 41万軒 | 230万人 | 平成19年3月 |
| 中央構造線断層帯地震 | 28千棟 | 0.3千人 | 15万軒 | 111万人 | 平成19年3月 |
| 南海トラフ巨大地震 | 179千棟 | 134千人 | 234万軒 | 832万人 | 平成26年1月にまとめ |
南海トラフ巨大地震の被害想定は、府のページでは「平成25年10月算出」、部会の資料では「平成26年1月にまとめた」と書かれています。BCPに書くときは、どちらの書き方に合わせたかをそろえておくと混乱しません。
表を見ると、建物が最も多く壊れるのは上町断層帯地震(A)で、死者が最も多いのは南海トラフ巨大地震です。同じ資料によると、南海トラフ巨大地震の死者約13万4千人のうち、約13万3千人は津波によるものです(冬の18時に起きた場合)。自社の拠点で効いてくるのが揺れなのか津波なのかによって、先に見る資料が変わります。
数字をBCPに書くときは、「どの地震の、何年の算出か」を必ず添えます。見直しのあとに数字が変わったとき、どこを直せばよいかがすぐ分かるからです。出どころの書き方は、被害想定の調べ方|BCPに使う3項目と国が挙げる4つの入口で扱っています。
南海トラフ巨大地震で、ライフラインが戻るまでの目安
BCPで特に使うのは、電気・水道・ガス・電話が、いつまでにどれくらい戻るかです。大阪府の南海トラフ巨大地震の被害想定(ライフライン等施設被害)は、府全体の止まる割合を時間ごとに示しています。
| 項目 | 直後 | 1日後 | 4日後 | 7日後 | 1か月後 |
|---|---|---|---|---|---|
| 断水率 | 94.0% | 45.2% | 43.0% | 40.6% | 14.3% |
| 停電率 | 55.0% | 15.5% | 7.9% | 6.5% | 6.0% |
| ガス供給停止率(全半壊家屋を除く) | 17.4% | 17.4% | 16.9% | 16.1% | 2.4% |
| 固定電話の不通契約率 | 55.7% | 15.1% | 9.0% | 7.5% | 3.3% |
| 携帯電話の停波基地局率 | 48.5% | 14.1% | 6.5% | 5.3% | 5.3% |
この表から、次のようなことが読み取れます。
- 電気と電話は1日後に大きく戻る想定だが、水道は4割ほどが1週間たっても断水したまま。断水がほぼ解消するのは約40日後とされている
- ガスは、安全を確かめてから再開するため、1週間ほどはほとんど戻らない
- 停電の復旧の見込みには、津波で浸かった地域は含まれていない。入れるようになった時点で復旧を始めるとされている
水道が止まる主な原因として、府は、津波が淀川をさかのぼることによる取水の制限、揺れと液状化による水道管の破損、非常用電源のないポンプ場の停止を挙げています。自社の拠点で断水が続く場合を考えて、水とトイレを何日分備えるかを決めておきます。数の出し方は、職場の備蓄は何をどれだけ?携帯トイレと毛布の必要数で整理しています。
同じ資料は、地震の当日に府内で最大約146万人の帰宅困難者が出ると想定しています。大阪駅・梅田駅の周辺だけで約18.3万人です。都心に拠点がある会社は、従業員をいつまで会社にとどめ、どの順番で帰すかも決めておく必要があります。分散帰宅の決め方|一斉帰宅抑制のあと、誰から・いつ帰すかが参考になります。
ただし、これらはすべて平成25年の算出です。見直しのあとは、数字が変わる可能性があります。
高層ビルに拠点がある会社は、長周期地震動にも注意
検討部会の資料では、長周期地震動のリスクも検討されています。令和8年3月の資料には、南海トラフ地震と、上町断層帯地震の1つのケースで、府内の山地を除く広い範囲が長周期地震動階級4になることを確かめた、とあります。
長周期地震動は、高層ビルの上の階を大きく、長く揺らす揺れです。同じ資料は、東北地方太平洋沖地震のとき、大阪府咲洲庁舎で約10分間の揺れが生じた例を挙げています。高層ビルの上の階に事務所がある会社は、家具や什器の固定、揺れている間の身の守り方、エレベーターが止まったあとの動き方を、あらかじめ決めておくと安心です。
これは部会で検討している内容で、府は、市町村が作るハザードマップなどに生かしてもらえるよう、情報を届けていくとしています。
見直しの途中で、BCPに書き残しておくこと
新しい被害想定の公表を待ってからBCPを作る、という考え方もあります。ただ、その間も地震は起こり得ます。いまある資料で作っておき、新しい想定が出たら直す、という進め方が現実的です。
そのために、BCPには次のことを書き残しておきます。
- 揺れ・液状化・津波の想定は、令和8年3月31日公表のものを使ったこと
- 被害の数字は、どの地震の、何年の算出のものか
- 検討部会の資料の数字を参考にした場合は、検討段階のものであること
- 新しい被害想定が公表されたら、BCPを見直すこと
「新しい想定の公表」は、BCPを見直すきっかけの1つです。見直しをどのきっかけで行うかは、BCPの見直しはいつ・何をきっかけに?公的ガイドラインが挙げる引き金で扱っています。
大阪の拠点で確かめたいこと
最後に、大阪府に拠点がある会社が確かめておきたい項目をまとめます。
場所の想定
- □ 令和8年3月31日公表の震度分布で、自社の拠点の震度を確かめている
- □ 液状化可能性の図で、拠点と周りの道路を確かめている
- □ 津波浸水想定と市町のハザードマップで、拠点が浸かるかを確かめている
- □ 地下に倉庫や設備がある場合、地下への浸水を別に考えている
被害の数字
- □ BCPに書いた数字に、地震の名前と算出の年を添えている
- □ 揺れと津波のどちらが自社の拠点で効くかを考えている
- □ 断水が長く続く前提で、水とトイレの日数を決めている
見直しへの備え
- □ 新しい被害想定が公表されたら、BCPを見直すと決めている
- □ 高層ビルの上の階に拠点がある場合、長周期地震動への備えを決めている
よくある質問
Q. 直下型地震と南海トラフ巨大地震の、どちらでBCPを作ればよいですか?
大阪府の被害想定では、建物の被害が最も大きいのは上町断層帯地震(A)、死者が最も多いのは南海トラフ巨大地震で、死者の大半は津波によるものです。まず自社の拠点が、直下型の揺れと南海トラフの津波のどちらで大きな影響を受けるかを、震度分布と津波浸水想定で確かめます。そのうえで、影響の大きいほうから考えると整理しやすくなります。
Q. 検討部会の資料にある新しい数字を、BCPに使ってもよいですか?
部会の資料は公開されていますが、検討の途中のもので、府が新しい被害想定として公表したものではありません。参考にする場合は、「検討部会の資料(令和8年3月)の数字で、検討段階のもの」とBCPに書き添えておくと、あとで公表された数字と区別できます。
Q. 府の津波浸水想定と、市のハザードマップは、どちらを見ればよいですか?
府は、津波浸水想定は市町のハザードマップの基礎になるもので、ハザードマップそのものではないとしています。避難の場所や経路は、市町のハザードマップで確かめます。津波の到達時間の書き方が資料によって違うので、BCPに時間を書くときは、どの資料のどの時間かを添えておきます。
Q. 南海トラフ地震臨時情報が出たときの対応も、BCPに入れるべきですか?
大阪府のページでも、臨時情報が出たときは後発の地震に備え、避難所や避難経路、家族との安否確認の手段、家具の固定などを確かめ直すことが大切だとしています。会社としての判断の基準は、南海トラフ地震臨時情報|企業は休むべきか、判断の基準で扱っています。
まとめ
大阪府の被害想定は、揺れ・液状化・津波の想定が令和8年3月31日に新しくなり、被害の数字は見直しの途中です。
いまBCPを作るなら、場所の想定は新しい図で確かめ、被害の数字は公表中の資料を「どの地震の、何年の算出か」を添えて使います。そして、新しい被害想定が公表されたら見直す、と決めておきます。新旧が混ざる時期だからこそ、出どころを書き残しておくことが、あとで直すときの手間を小さくします。
株式会社LA・PITAでは、拠点の数や従業員数などを踏まえて、企業・官公庁の備蓄計画のご相談を承っています。
出典
- 大阪府「被害想定・地震対策(新・大阪府地震防災アクションプラン等)」
- 大阪府「震度分布・液状化可能性(令和8年3月31日公表)」
- 大阪府「津波浸水想定(令和8年3月31日公表)」、『津波浸水想定について(解説)』
- 大阪府「地震津波災害対策等検討部会」
- 大阪府 地震津波災害対策等検討部会 資料1-1『現在公表している被害想定について』
- 大阪府 地震津波災害対策等検討部会 第6回 資料1『第5回検討部会における委員意見と今後の対応』(令和8年3月18日)
- 大阪府「南海トラフ巨大地震(平成25年10月算出)」、『大阪府域の被害想定について ライフライン等施設被害・経済被害等』
- 大阪府「直下型地震(平成19年3月算出)」
