BCP COLUMN 業種別のBCP

飲食店のBCPとは?お客様の安全から営業再開まで、店が決めておくこと

公開日 2026.09.29 最終更新 2026.10.01 読了目安 14分
明るい飲食店の店内。手前に木のテーブルと、灰色の座面の木の椅子が並んでいて、テーブルの上には何も載っていない。奥のカウンター越しに、ステンレスの厨房と吊り下げの照明が見える。左の大きな窓から日が差している。
目次

飲食店の災害対策のうち、営業を続け、元に戻すための計画がBCP(事業継続計画)です。地震や台風、火災、感染症などで店が止まりそうなときに、何を優先し、どこまで営業するかを前もって決めておきます。

営業中に大きく揺れたら、店内のお客様をどう誘導するか。停電でレジも冷蔵庫も止まったら、何ができるか。電車が止まって、お客様が帰れなくなったら。休業が1か月続いたら、家賃と給料をどう払うか。

工場や事務所のBCPと大きく違うのは、店の中に「お客様」がいることです。飲食業向けには、日本観光振興協会と日本商工会議所が共管する観光危機管理・事業継続力強化研究会が、『飲食事業者用BCP作成ガイド』を公開しています。企業向けの記入例と、小規模企業・個人事業主向けのBCP例の2種類があり、2026年9月時点でも同協会のページで案内されています。この記事では、このガイドを軸に、消防法や帰宅困難者対策の決まりも合わせて整理します。

この記事でわかることは、次の5点です。

  • 飲食店のBCPが、ほかの業種と違うところ
  • 災害のときに、どこまで営業を続けるかの決め方
  • 営業中に被災したときの、お客様への対応
  • 停電・断水で使えなくなるものと、その代わりの手段
  • 休業中のお金と従業員、営業再開の知らせ方

飲食店のBCPが、ほかの業種と違うところ

観光危機管理・事業継続力強化研究会の『飲食事業者用BCP作成ガイド』は、BCPを作る目的を「お客様」「取引先」「従業員」「地域」の4つに分けて書いています。最初に置かれているのはお客様で、緊急時にお客様の安全を守ること、帰れなくなったお客様が家に帰れるよう手助けすることが挙がっています。

もう1つの違いは、停電したときに止まるものの多さです。ガイドの記入例には、停電でお客様と店に何が起きるかが並んでいます。

停電で止まるもの 起きること
照明 暗い店内を移動するのが危険になる
空調 店内が暑い・寒い、機械換気ができない
揚水ポンプ 断水し、トイレや洗面所が使えない
自動ドア・エレベーター 出入りできない、閉じ込められる
POSレジ・決済端末 現金以外で支払いを受けられない
冷凍庫・冷蔵庫 食材の鮮度が落ちる、傷む
予約端末・パソコン 予約の管理や経理ができない

ガイドの記入例には、「断水はないが、揚水ポンプ停止」という状態も出てきます。水道が止まっていなくても、停電でトイレが使えなくなることがあります。

さらに、災害の報道が広がると予約のキャンセルが増え、店の被害が限られていても客足が戻らないことがあります。ガイドは、その先に資金繰りの悪化や、従業員の離職までを影響として並べています。

最初に、どんなときにどこまで営業するかを決める

ガイドの記入例は、災害時の営業方針を次のように書いています。お客様の安全と食品衛生を守れるなら、使えない設備やサービスがあっても、できるところまで営業を続ける。必要なら、地域の炊き出しにもスタッフや食材で協力する。

そのうえで、営業を続けるかどうかの選択肢を4つ挙げています。

  1. 通常どおり営業を続ける
  2. 一部のメニューやサービスをやめて、部分的に営業する
  3. 店での営業は休むが、オンラインの物販・通販などは続ける
  4. 全面的に休業する

店や地域の被害、電気・ガス・水道などの状況、交通の状況を踏まえて総合的に判断し、最終的には経営責任者が決める、というのがガイドの考え方です。

業態ごとに、戻す目安を置いておく

小規模企業・個人事業主向けのBCP例には、ランチ・ディナー・弁当・デリバリーを分けて、いつまでに戻すかを表にした例があります。弁当は翌日から限られた形で始めて3日後には通常に戻し、ランチとデリバリーは3日後から限られた形で、1週間後にはディナーも含めて通常のサービスに戻す、という目標です。

ただ、この日数はあくまで例です。自店で何日と置くかは、その日数で本当に戻せるかを確かめてから決めます。数字の置き方は、目標復旧時間(RTO)の決め方|最初の数字が「案」にとどまる理由で詳しく扱っています。

営業中に被災したら、お客様をどうするか

揺れや火災の直後にお客様を守る手順は、BCPで新しく作るものではありません。ガイドも、危機対応計画や消防計画など、すでにある計画に従って安全確保を素早く行う、という書き方をしています。

飲食店は消防法で「(三)項ロ」の防火対象物にあたります。お客様と従業員を合わせた収容人員が30人以上の店は、防火管理者を定め、消防計画を作り、それに基づいて消火・通報・避難の訓練を行うことが求められています(消防法第8条、消防法施行令第1条の2)。雑居ビルに入っている店は、建物全体で判断されることがあるので、所轄の消防署に確かめておくと確実です。

電車が止まり、お客様が帰れないとき

電車が止まり、お客様が帰れなくなったときの対応として、ガイドは次のようなことを挙げています。

  • ホールや個室を、待機の場所として使ってもらう
  • 店の食材で簡単な食事を出す。ガスや電気が使えなければ、固形燃料で温められるものや備蓄の非常食を出す
  • 断水のときは、備蓄の飲料水や在庫の飲み物を出す
  • 交通の運行情報や店の外の避難場所を、掲示やホワイトボード、口頭で伝える。できれば、Wi-Fiと携帯電話の充電を使えるようにする
  • 高齢の方、乳幼児のいる家族、持病のある方には、できるだけ個室を使ってもらう

小規模企業・個人事業主向けのBCP例は、障害のある方も挙げ、個室のほかに小上がりも使ってもらうとしています。

東京都の『東京都帰宅困難者対策条例』は、帰宅困難者に「買物その他の理由により来店し」た人を含めています。そのうえで第八条第3項で、駅などの公共交通の施設や、百貨店などの集客施設以外の施設の管理者にも、「施設利用者の保護のために必要な措置」を講じるよう努めることを求めています。義務ではなく努力義務ですが、都内の店は、お客様を店にとどめる場面を想定しておきたいところです。

首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議の『事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン』(令和6年7月26日)も、来所者を従業員に準じて施設内で待機させるとしています。平時に決めておくこととして、来所者が何人くらいになるか、その人たちに渡す備蓄の種類と量、待ってもらう場所を挙げています。建物や周りが安全でなく、施設内で待機できない場合の誘導については、テナントビルでは施設管理者の指示に従うとしています。

台風や大雪のように前もって分かる災害では、交通機関の計画運休などの情報をお客様に伝え、帰れるうちに帰宅してもらうことも、ガイドは対応の1つに挙げています。

お客様や従業員が店で夜を越すときに何が足りなくなるかは、帰宅困難で会社に泊まる備え|人数で出ない品目と寝る場所の面積で整理しています。

火を使う店は、火災への備えも確かめる

企業向けの記入例は、飲食店の危機として、自店からの出火と近所の火災の延焼を挙げています。キッチンや店が焼けるだけでなく、消火の水で内装や食材が使えなくなることまで、影響として書かれています。

総務省消防庁の『消防の動き』2018年5月号によると、平成28年12月に新潟県糸魚川市で起きた大規模な火災は、延べ面積135.8㎡の飲食店のこんろが火元でした。これを受けて消防法施行令が改正され、2019年10月1日から、延べ面積150㎡未満の飲食店でも、こんろなど火を使う設備や器具があれば、原則として消火器具を置くことが義務になりました。消防庁の同じ資料は、小規模な飲食店の火災の原因のうち、こんろが約6割を占めていたとしています。

ただし、次のような装置が付いた設備や器具だけを使っている店は、設置義務の対象になりません。

  • 鍋の温度が上がりすぎると自動でガスを止める「調理油過熱防止装置」
  • 自動で火を感知して消火薬剤を出す「自動消火装置」
  • カセットこんろの、ボンベの圧力の上昇を感知してガスを止める装置

吹きこぼれで火が消えたときにガスを止める「立ち消え防止安全装置」は、この装置に含まれません。自店のこんろがどれにあたるか、分からない場合は所轄の消防署に確かめてください。置くことが義務になった消火器具は、定期に点検して、その結果を消防署などに報告することも求められます。

停電・断水のとき、店で何ができるか

ガイドの記入例には、店に必要な資源ごとに、使えなくなったときの代わりの手段が並んでいます。

使えなくなるもの 代わりの手段(記入例)
ホールのスタッフ 弁当販売など、ホールのいらない営業に絞る
店舗 屋外やテントで食事を出す。弁当やデリバリーに集中する
POSレジ 現金と手作業で会計する
食器 割れなかった食器や、紙・プラスチックの食器を使う
予約の一覧 災害の前に印刷しておく
キッチン プロパンガスや固形燃料を使った臨時の厨房で調理する
冷蔵庫・冷凍庫 開け閉めを減らし、冷蔵庫の中の食材から使う
生鮮の食材 別の業者や生産者から直接仕入れる。在庫の食材でメニューを変える

このうち、紙の食器や固形燃料、別の仕入先の連絡先などは、災害の前に用意しておかないと使えません。表を見ながら、自店で前もって準備が要るものに印を付けておくと、平時にやることが見えてきます。

ガイドは、店を離れるときの非常持ち出し品として、現金、通帳と公印、当日のお客様リスト、予約台帳、損害保険の証書、関係先の連絡先リスト、業務に必要なIDとパスワードを挙げています。小規模企業・個人事業主向けのBCP例には、停電で端末が使えなくなる前提で、当日の予約者名簿を前日に印刷しておく、という例もあります。

仕入先の側でどのような備えがされているかは、食品工場のBCPとは?策定方法・国のひな型・災害時の対策をわかりやすく解説が参考になります。

休業中のお金と従業員を、先に考えておく

ガイドの小規模企業・個人事業主向けの例では、店を1か月休んだときの損失額を先に出しています。店の営業で250万円、弁当とデリバリーで50万円、合わせて300万円です。そのため、当面の運転資金として手元に300万円が要る、と見積もっています。

そのうえで、手元の現預金、金融機関の緊急融資や返済の猶予、仕入先への支払いの猶予、公的な融資など、どこからいくら調達できるかを表にしています。影響が出たら、すぐに現預金と支払い予定を確かめ、取引のある金融機関に早めに状況を報告する、という順番です。

保険は、平時に中身を確かめておく

記入例には、火災保険、施設賠償責任保険、生産物賠償責任保険、店舗休業保険が並んでいます。大規模な災害のあとは査定の対象が増え、保険金の支払いが遅れることがあるため、被害は1日でも早く届け出るよう書かれています。どの保険で何が補償されるかは、災害のあとではなく平時に確かめておきます。

従業員の勤務と給料の扱い

ガイドの例では、交通機関が止まって来られない人には、自宅でできる仕事を指示するか勤務免除(出勤扱い)に、自宅が被害を受けるなどして来られない人は特別休暇に、と扱いを分けています。給料は、全額を支払日までに払えるよう最大限の努力をする、という方針です。雇用調整助成金などの公的制度の活用も挙がっていますが、使えるかどうかは、そのときの制度の条件で確かめてください。

再開を知らせるところまでが、BCP

ガイドは、休業中や営業再開の情報発信にも多くのページを割いています。自社のウェブサイトやSNSで営業状況を出すだけでなく、予約のあるお客様やグルメサイトには、メールなどで個別に詳しく知らせます。いったん予約を取り消したお客様に、再開後の再予約を働きかけることも書かれています。

ガイドは、ウェブサイトを更新しただけでは再開は伝わらないとして、メールなどでこちらから届ける形を勧めています。災害のあとに店を応援したいと考える常連のお客様に、いまの状況を知らせることも挙がっています。

建物や設備の復旧についても注意があります。小規模企業・個人事業主向けのBCP例は、大規模な災害のあとは工事の需要が一気に増え、職人や資材が足りずに、着工が数か月先になることがあるとしています。被害が小さくても食器が多く割れることがあるため、再開日から逆算して、買い替えを早めに発注するよう書かれています。

店に置いておく備蓄

飲食店には食材の在庫がありますが、停電で冷蔵庫が止まったり、ガスや水が使えなかったりすると、在庫だけでは食事を出せないことがあります。ガイドは、お客様や従業員が店内にとどまるときのために、次の備蓄品を挙げています。

  • 非常食、水(ペットボトル)
  • 応急手当用の医薬品
  • 携帯電話の充電器
  • ティッシュペーパー、ペーパータオル
  • ポータブルトイレ
  • 保温用のアルミシート
  • アルコール手指消毒液、液体せっけん

数量の欄は空欄で、店ごとに決める形です。従業員の分に加えて、席数や来店客の数から何人分を見込むかを決めます。数の出し方は職場の備蓄は何をどれだけ?携帯トイレと毛布の必要数、狭い店での置き場所は備蓄の置き場所と消防法|会社の大きさだけで判断しないが参考になります。

ただし、「BCP=非常食を置くこと」ではありません。備蓄は、お客様と従業員の安全を守り、営業を続けるための対策の1つです。

自店のBCPで確かめたいこと

最後に、飲食店のBCPを作るとき、見直すときに確かめたい項目をまとめます。

営業の方針

  • □ どの状態なら営業を続け、どの状態なら休むかを決めている
  • □ ランチ・ディナー・テイクアウトなど、業態ごとに再開の目安を置いている
  • □ 営業時間外に災害が起きたとき、誰が店を確認するかを決めている

お客様の安全

  • □ 消防計画があるか、防火管理者が必要な規模かを確かめている
  • □ 帰れなくなったお客様の待機場所と、渡すものを決めている
  • □ 高齢の方や小さな子ども連れの方を案内する場所を決めている

火と設備

  • □ こんろに消火器具の設置義務があるかを確かめている
  • □ 停電したときに止まる設備(揚水ポンプ・自動ドア・レジ)を把握している
  • □ 固形燃料や紙の食器など、代わりの手段の置き場所と数を決めている

お金と人

  • □ 1か月休業したときの損失額と、必要な現預金を出している
  • □ 保険の補償内容と連絡先を確かめている
  • □ 出勤できない従業員の扱いと、給料の払い方を決めている

知らせ方

  • □ 予約客とグルメサイトへの連絡方法を決めている
  • □ 前日に予約者名簿を印刷するなど、停電しても使える形で情報を持っている

よくある質問

Q. 小規模企業向けと企業向けのガイドは、何が違いますか?

小規模企業・個人事業主向けのBCP例は、オーナーシェフとホール担当のように少人数の体制を前提にしています。企業向けの記入例は、本社と複数の店舗を前提に、対策本部を置く基準(店舗の所在地で震度4以上の揺れを観測した場合など)や、非常用電源、避難誘導の表示まで含んでいます。店の規模に近いほうから読むと、書き始めやすくなります。

Q. 消防計画があれば、BCPは要りませんか?

消防計画は、火災や地震のときにお客様と従業員の安全を守るための計画です。BCPは、その後に営業をどう続け、どう再開するか、資金や雇用をどうするかまでを扱います。ガイドも、お客様の安全確保は既存の消防計画などに従うとしたうえで、その先の対応を書いています。

Q. テナントとしてビルに入っている店は、どうすればよいですか?

『事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン』は、施設内で待機できない場合の誘導について、テナントビルでは施設管理者の指示に従うとしています。停電したときのエレベーターや揚水ポンプ、避難経路は、店だけでは決められません。ビルの管理会社と、災害時の連絡方法や待機の場所を確かめておくと安心です。

Q. 感染症や食中毒も、BCPで考えるのですか?

企業向けの記入例は、健康・衛生に関わる危機として感染症と食中毒を挙げています。感染症では宴会の自粛や営業時間の短縮の要請、食中毒では保健所による営業停止と報道が、影響として書かれています。感染症の備えは感染症のBCP|政府行動計画の改定で企業の想定はどう変わったかで扱っています。

まとめ

飲食店のBCPで決めておくことは、大きく5つです。

店にいるお客様をどう守るか。どの状態なら営業を続けるか。停電や断水のとき、何で代わりをするか。休業が続いたとき、お金と従業員をどう守るか。そして、再開をどう知らせるか。

ここまでを、自店の席数、設備、立地、従業員の人数に合わせて決めておくことが、実際に動くBCPにつながります。飲食店向けの作成ガイドは、記入例を見ながら空欄を埋めていく形なので、まず自店に近い版を開いてみてください。

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