目次
- 01この記事でわかること
- 02食品工場にBCPが必要な理由
- 03食品工場のBCPは「災害別」ではなく「機能停止」から考える
- 04農林水産省がHPで食品工場向けBCPひな型を公開
- 05BCP策定にあたり最初に決めるべき「重要製品・重要業務」について
- 06食品工場BCPで確認しておきたい7つの経営資源
- 07担当者が動けない場合の「代行者」も決めておく
- 08BCPの発動基準を決めておく
- 09食品工場の事業継続には4つの戦略がある
- 10他社・取引先との連携もBCPの重要な要素
- 11従業員のための備蓄もBCP対策の一つ
- 12「止める」だけでなく「戻す」まで決める
- 13BCPは「作って終わり」にしないことが重要
- 14食品工場のBCP策定チェックリスト
- 15よくある質問
- 16まとめ
食品工場のBCP(事業継続計画)は、地震や台風などの災害が発生したときに、工場を守るだけの計画ではありません。
停電したらどうするか。
断水したらどうするか。
原材料が届かなくなったらどうするか。
従業員が出社できなくなったらどうするか。
物流が止まったらどうするか。
こうした事態が発生したときに、「何を優先して継続し、何を止め、どのように復旧するか」をあらかじめ決めておくことが、食品工場のBCPです。
特に食品工場では、製造設備だけでなく、人員、電力、水、原材料、包装資材、物流など、さまざまな要素がつながっています。そのため、一つの機能が止まることで製造そのものが継続できなくなる可能性があります。
農林水産省では、食品製造業を対象としたBCPのひな型や、食品産業事業者間の連携に関する指針などを公開しています。
この記事では、これらの公的資料をもとに、食品工場がBCPを策定するときに押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 食品工場にBCPが必要な理由
- 農林水産省が公開している食品製造業向けBCPのひな型
- BCPで最初に決めるべき「重要製品・重要業務」
- 食品工場で想定したい人・設備・電力・水・原材料・物流のリスク
- 「災害の種類」ではなく「何が止まるか」から考えるBCP
- 他社・取引先との連携をBCPに組み込む方法
- 従業員向けの飲料水・非常食など、備蓄をBCPに組み込む考え方
- BCPを策定して終わりにしないための訓練・見直し
食品工場にBCPが必要な理由
食品工場では、災害が発生すると単純に「建物が壊れる」だけではなく、さまざまな機能が同時に停止する可能性があります。
例えば、地震によって停電が発生すると、製造設備だけでなく、冷蔵・冷凍設備、照明、通信設備などにも影響が及びます。
さらに、道路が寸断されれば原材料が届かず、物流が停止すれば製造した食品を出荷できません。
つまり食品工場のBCPでは、災害そのものだけを見るのではなく、
「その災害によって、工場の何が止まるのか」
を考えることが重要です。
食品工場で考えておきたい主な機能停止
- 従業員が出社できない
- 製造設備が使用できない
- 電力が供給されない
- 水が使用できない
- 原材料が届かない
- 包装資材が届かない
- 冷蔵・冷凍設備が停止する
- 通信ができない
- 製品を出荷できない
- 取引先や物流会社が機能しない
これらをあらかじめ洗い出し、それぞれに「どう継続するか」「代替手段はあるか」「復旧まで何を優先するか」を決めておくことが、食品工場のBCPにつながります。
食品工場のBCPは「災害別」ではなく「機能停止」から考える
BCPというと、
- 地震が起きたらどうする
- 台風が来たらどうする
- 感染症が流行したらどうする
というように、災害や緊急事態ごとに計画を作ることをイメージしがちです。
しかし、農林水産省の「緊急時における食品産業事業者間連携に係る指針」では、特定の緊急事態だけを想定するのではなく、緊急事態の結果として発生する「機能の破断」ごとに対応策を考えることが有効とされています。
例えば、
地震 → 停電 → 製造設備が停止
というケースがあったとしても、
台風 → 停電 → 製造設備が停止
というケースがあります。
原因となる災害は違っていても、「停電によって製造設備が停止する」という問題は共通しています。
そのため、
「地震が起きたら何をするか」
だけではなく、
「工場が停止したら何をするか」
「電力が止まったら何をするか」
「原材料が届かなかったら何をするか」
という視点でBCPを考えておくと、想定していなかった災害にも対応しやすくなります。
農林水産省がHPで食品工場向けBCPひな型を公開
食品工場のBCPを白紙から作成する必要はありません。
農林水産省「食品産業事業者等の事業継続計画(BCP)の推進」では、「事業継続計画(BCP)策定セミナー研修資料(事業継続計画書ひな型)」を公開しています。
このひな型は、
- 事業継続基本計画書
- 事業継続計画書(地震編)
- 事業継続計画書(新型インフルエンザ編)
の3つに分かれています。
基本計画書では、災害の種類にかかわらず必要となる基本方針や体制、重要製品・業務、教育・訓練、BCPの見直しなどを整理します。
一方、地震編や新型インフルエンザ編では、それぞれの事象に応じた対応を整理する構成になっています。
ただし、ひな型は平成23年度当時に作成されたものも含まれます。
特に感染症については、その後、国の想定や制度が更新されています。
そのため、ひな型の形式を参考にしながら、現在の公的資料や自社の状況に合わせて内容を更新することが重要です。
BCP策定にあたり最初に決めるべき「重要製品・重要業務」について
食品工場のBCPで迷いやすいのが、
「どの業務を優先して継続するのか」
という問題です。
すべての製品・すべての業務を平常時と同じように維持することは、災害時には難しい場合があります。
そこで、農林水産省のBCPひな型では、重要業務を決める際に、
製品 → 必要な業務 → 重要業務
という順番で考える方法が示されています。
具体的には3段階です
STEP1 優先して供給する製品を決める
まず、「災害時にもできるだけ供給を続けたい製品は何か」を決めます。
その際の観点として、農林水産省のひな型では、
- 社会的責任
- サプライチェーン(フードチェーン)の維持
- 自社の財務への影響
が示されています。
STEP2 その製品に必要な業務を洗い出す
次に、その製品を製造・出荷するために必要な業務をすべて洗い出します。
例えば、
- 原材料の調達
- 製造
- 品質管理
- 包装
- 保管
- 出荷
- 物流
- 設備保全
などです。
STEP3 その中から重要業務を絞り込む
最後に、洗い出した業務の中から、特に継続が必要な業務を重要業務として選定します。
「どの業務も重要だから決められない」という場合は、先に優先製品を決めることで、判断しやすくなります。
食品工場BCPで確認しておきたい7つの経営資源
重要製品・重要業務を決めたら、その業務を継続するために必要なものを確認します。
特に食品工場では、次の7つを確認しておくと整理しやすくなります。
1.人
- 必要な人数は何人か
- 特定の資格・技能を持つ人がいないと動かせない工程はないか
- 担当者が出社できない場合の代行者は決まっているか
農林水産省のBCPひな型にも、「担当者」だけでなく「代行者」を記入する欄があります。
2.設備
- どの設備が停止すると製造できなくなるか
- 代替設備はあるか
- 復旧に必要な部品を確保しているか
3.電力
- 停電するとどの設備が停止するか
- 非常用電源は必要か
- 非常用電源でどこまでの設備を動かせるか
4.水
食品工場では、製造だけでなく洗浄や衛生管理などにも水が必要となる場合があります。
そのため、
- 断水時にどの業務が停止するか
- 必要な水量はどれくらいか
- 代替手段があるか
を確認しておくことが重要です。
5.原材料・包装資材
主要原材料や包装資材が届かなければ、設備が無事でも製造できません。
- 主要原材料は何か
- 代替調達先はあるか
- 仕入先が1社に集中していないか
- どれくらいの在庫を持つ必要があるか
を確認します。
6.物流
製造できても、配送できなければ事業は継続できません。
- 物流会社が被災した場合
- 道路が通行できない場合
- 倉庫が使えない場合
- 出荷先が受け入れできない場合
などを想定して、代替手段を検討します。
7.通信・情報
災害時には、電話・インターネットなどの通信手段が使えなくなる可能性があります。
取引先や従業員への連絡方法を複数用意しておくことも、BCPでは重要です。
担当者が動けない場合の「代行者」も決めておく
BCPを作る際に忘れられやすいのが、
「担当者自身が被災したらどうするか」
という問題です。
農林水産省のひな型では、担当者・担当部署だけでなく、
- 代行者
- 代行部署
の欄も用意されています。
災害は、計画を作った担当者だけを避けて発生してくれるわけではありません。
そのため、
「担当者がいなくても業務を継続できる仕組み」
を作っておくことが重要です。
また、就業時間外に災害が発生した場合に備えて、非常時の参集要員や対外的な窓口についても、あらかじめ決めておく必要があります。
BCPの発動基準を決めておく
災害が発生したからといって、すべてのケースで同じ対応をするとは限りません。
農林水産省のひな型では、危機対策本部の設置基準とBCPの発動基準を分けて考えています。
BCP発動の判断材料として示されているのは、例えば次のような項目です。
- 交通網の寸断や従業員の負傷などによる出社可能な従業員の不足
- 自社建物や設備の被害状況
- 電気・上下水道・ガス・通信などの重要インフラの途絶
- 取引先の状況
自社のBCPでは、これらを参考に、
「どの状態になったらBCPを発動するのか」
を具体的に決めておきます。
食品工場の事業継続には4つの戦略がある
農林水産省の地震編では、重要拠点が被災した場合の事業継続戦略として、次の4つが示されています。
| 戦略 | 内容 |
|---|---|
| 現地復旧 | 被災した工場を復旧する |
| 自社他拠点での代替 | 別の自社拠点へ業務を移す |
| 他社などでの代替 | 他社へ業務を移管する |
| 在庫の積み増し | あらかじめ必要な在庫を確保する |
重要なのは、1つの方法だけに依存しないことです。
例えば、工場が大きく被災した場合、「復旧する」だけでは時間がかかる可能性があります。
そのため、
- 復旧までの間は在庫で対応する
- 自社の別拠点で代替する
- 事前に取り決めた他社へ一部業務を移管する
など、複数の選択肢を組み合わせて考えます。
他社・取引先との連携もBCPの重要な要素
食品工場の事業継続は、自社だけでは完結しません。
原材料メーカー、物流会社、倉庫会社、販売先など、さまざまな企業が関係しています。
農林水産省の「緊急時における食品産業事業者間連携に係る指針」では、食品産業事業者間の連携について、
- 取引先事業者
- 同業種事業者
- 地域内事業者
- 同業種団体
などとの連携が整理されています。
具体的には、
- 原材料の融通
- 製品の代替供給
- 配送手段の代替
- 生産拠点や施設の貸与
- 製品供給能力などの情報共有
- 訓練・演習の共同実施
などが考えられます。
ただし、同業他社との連携などを具体的な契約・協定にする場合には、守秘義務、損害賠償、独占禁止法・下請法などの法的な論点が生じる可能性があります。
実際の取り決めを行う場合は、自社の法務部門や弁護士などの専門家に確認することが重要です。
従業員のための備蓄もBCP対策の一つ
食品工場のBCPでは、製造設備や原材料だけでなく、事業を動かす「人」をどう守るかも考える必要があります。
大規模災害によって交通機関が停止した場合、従業員が帰宅できず、事業所内に留まるケースも考えられます。
そのため、事業所では、
- 飲料水
- 非常食
- 簡易トイレ
- 衛生用品
- 照明
- 情報収集・通信用品
など、従業員が一定期間安全に過ごすための備蓄についても検討しておくことが重要です。
ただし、「BCP=非常食を備蓄すること」ではありません。
備蓄はBCPを構成する対策の一つです。
重要なのは、
「どの業務を継続するために、どの資源が必要なのか」
を整理したうえで、人・設備・原材料・物流・備蓄などを一体的に考えることです。
「止める」だけでなく「戻す」まで決める
BCPでは、災害発生直後の対応だけに目が向きがちです。
しかし、事業を継続するためには、
「いつ、どの順番で通常の状態へ戻すのか」
も重要です。
例えば、
- どの製造ラインから復旧するのか
- どの製品を優先するのか
- どの設備を先に復旧するのか
- 備蓄を使った場合、いつ補充するのか
- 今回の対応で問題になった点をどう改善するのか
といった内容です。
農林水産省のひな型でも、対応を緩和・解除するだけでなく、次の事態に備えた情報収集や備蓄品の補充、対応の見直しが示されています。
BCPは、災害が終わったところで完了するものではありません。
「復旧 → 振り返り → 改善 → 次の災害への備え」
までを一つのサイクルとして考えることが大切です。
BCPは「作って終わり」にしないことが重要
BCPを作成しただけでは、実際の災害時に機能するとは限りません。
例えば、
「非常用電源がある」と書いてあっても、
- 誰が操作するのか
- どの設備につなぐのか
- 燃料はどれだけあるのか
- 実際に何時間使用できるのか
が分からなければ、災害時に使えない可能性があります。
そのため、BCPを策定した後は、
- 訓練する
- 問題点を確認する
- BCPを修正する
- 備蓄・設備・連絡体制を見直す
- 再度訓練する
というサイクルを回すことが重要です。
食品工場のBCP策定チェックリスト
最後に、食品工場のBCPを見直す際に確認したい項目をまとめます。
重要業務
- □ 災害時に優先して供給する製品を決めている
- □ その製品に必要な業務を洗い出している
- □ 特に継続すべき重要業務を決めている
人
- □ 重要業務の担当者を決めている
- □ 担当者が不在の場合の代行者を決めている
- □ 非常時の参集要員を決めている
設備・インフラ
- □ 停電時の対応を決めている
- □ 断水時の対応を決めている
- □ 製造設備の代替・復旧方法を確認している
- □ 通信手段を複数確保している
原材料・物流
- □ 主要原材料を把握している
- □ 代替調達先を検討している
- □ 包装資材の供給停止を想定している
- □ 物流停止時の代替手段を検討している
備蓄
- □ 従業員向けの飲料水を確保している
- □ 非常食を確保している
- □ 簡易トイレなどの衛生用品を確保している
- □ 備蓄品を使用した場合の補充方法を決めている
連携
- □ 重要な取引先を把握している
- □ 代替供給先を検討している
- □ 必要に応じて他社との連携方法を検討している
- □ 連携に必要な契約・協定について確認している
訓練・見直し
- □ 定期的にBCP訓練を行っている
- □ 訓練で判明した問題をBCPに反映している
- □ 備蓄品の数量・期限を定期的に確認している
- □ 設備・人員・取引先の変更に合わせてBCPを更新している
よくある質問
Q. 食品工場のBCPに国のひな型はありますか?
はい。本文中でも紹介していますが、農林水産省が「事業継続計画(BCP)策定セミナー研修資料(事業継続計画書ひな型)」を公開しています。
事業継続基本計画書、地震編、新型インフルエンザ編の資料に分かれており、記入例も用意されています。
ただし、作成時点が古い資料も含まれるため、現在の制度や自社の状況に合わせて内容を更新することが重要です。
Q. 食品工場のBCPでは、最初に何を決めればいいですか?
まず、災害時にも優先して供給したい製品を決めます。
そのうえで、その製品を製造・供給するために必要な業務を洗い出し、特に継続が必要な業務を重要業務として選定します。
Q. BCPは地震・台風など災害ごとに作る必要がありますか?
災害ごとの想定も必要ですが、それだけでは十分とは限りません。
「地震が起きたら」ではなく、「停電したら」「工場が使えなくなったら」「原材料が届かなかったら」など、災害の結果として発生する機能停止から考える方法も重要です。
Q. 従業員用の非常食を備蓄することもBCPになりますか?
従業員が災害後も事業所内で一定期間活動する必要がある場合、飲料水や非常食などの備蓄は、事業継続を支える対策の一つとして検討できます。
ただし、備蓄だけでBCPが完成するわけではありません。
重要業務、人員、設備、原材料、物流、通信などを含めて総合的に検討する必要があります。
Q. BCPは一度作れば完了しますか?
いいえ。
訓練や実際の災害対応で分かった問題を反映し、人員・設備・取引先などの変化に合わせて定期的に見直すことが重要です。
まとめ
食品工場のBCPで重要なのは、単に「地震が起きたらどうするか」を決めることではありません。
何を優先して供給するのか。
そのために必要な業務は何か。
人・設備・電力・水・原材料・物流など、どの機能が止まると事業継続が難しくなるのか。
そして、
その機能が止まった場合、どのように代替・復旧するのか。
ここまでを具体的に整理しておくことが、実効性のあるBCPにつながります。
農林水産省のBCPひな型を活用しながら、自社の工場・製品・従業員・サプライチェーンの状況に合わせて内容を具体化していきましょう。
また、BCPは計画書を作成するだけでなく、実際に必要となる備蓄品や設備、連絡体制などまで整えて初めて機能します。
食品工場の防災備蓄やBCP対策についてお悩みの場合は、必要な備蓄数量や品目、拠点ごとの備蓄計画なども含めて検討することをおすすめします。
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出典
- 農林水産省「食品産業事業者等の事業継続計画(BCP)の推進」
- 農林水産省大臣官房食料安全保障課「緊急時の食品産業事業者間連携に係る指針」
- 農林水産省「食料供給困難事態対策法について」
- 農林水産省「食料供給困難事態対策の実施に関する基本的な方針」
