BCP COLUMN 業種別のBCP

保育園のBCPは努力義務?|施設で違う3通りを条文で確かめる

公開日 2026.09.16 最終更新 2026.10.01 読了目安 13分
明るい保育室。左に木の棚とおもちゃ、床に大きなジョイントマットが敷かれ、奥に黄色い避難用の手押し車が置かれている。壁に太陽と木の絵。
目次

「保育園のBCP(事業継続計画)は2023年4月から努力義務になりました」。検索するとこの説明が並びます。

間違いではありません。ただし、どの施設の話かを書かないと、半分しか合っていません。同じ省令の隣の条では義務になっていますし、企業が自社で持つ事業所内保育など、別の省令が適用される事業もあります。

この記事は、児童福祉施設等の業務継続計画が条文でどう書かれているかを確認し、施設ごとに書き分けます。自社が当てはまるところだけ読んでください。

この記事でわかることは、次の5点です。

  • 業務継続計画の扱いは、施設・事業の種類によって異なる
  • 認可保育所は努力義務、障害児入所施設等は義務
  • 事業所内保育などの地域型保育については、適用される省令に業務継続計画の規定が置かれていない
  • 同じ改正で入った「安全計画」は、義務
  • だから「BCPは努力義務だから後回し」と考えるのではなく、BCPと安全計画を分けて確認する必要がある

まず、自社がどこに当てはまるかを見る

業務継続計画の扱いは、認可保育所を含む児童福祉施設では努力義務、障害児入所施設等では義務となっています。一方、事業所内保育など地域型保育については、「家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準」に業務継続計画そのものを定めた条文は置かれていません。

根拠となる省令も分かれています。

施設・事業ごとの違いを並べる

施設・事業 根拠 業務継続計画 安全計画
認可保育所ほか児童福祉施設 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 第9条の3/第6条の3 努力義務 義務
障害児入所施設等 同 第9条の4 義務 —
事業所内保育・家庭的保育など地域型保育 家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準 第7条の2 業務継続計画の規定なし 義務

「保育園のBCPは努力義務」という説明は、この表の1行目の話です。2行目には当てはまりません。また、3行目についても、別の省令が適用されるため、同じように扱うことはできません。

省令が2つあることが、話をややこしくしています

認可保育所は「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」の対象です。一方、事業所内保育や家庭的保育といった地域型保育は、「家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準」の対象になります。

どちらも「保育」ですが、根拠となる省令が違うので、求められることも違います。記事や説明を読むときは、どの省令の話かを見てください。

e-Gov「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」

e-Gov「家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準」

認可保育所は、3つとも努力義務

「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第9条の3は、児童福祉施設に対し、感染症や非常災害の発生時に支援を継続するため、また非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画を策定し、必要な措置を講ずるよう「努めなければならない」としています。

さらに、職員への周知と研修・訓練の定期的な実施、定期的な見直しについても努力義務としています。

3つの項が、どれも努力義務にとどまる

条文は3つの項に分かれています。策定と措置、職員への周知と研修・訓練、定期的な見直しです。第1項と第2項が「努めなければならない」、第3項が「努めるものとする」となっています。

介護の分野では、この3つが義務になっています。研修と訓練の回数まで決まっていますが、保育所については、同じような回数の定めはありません。

「努力義務だから後回し」でよいのか

ここが分かれ道だと思います。

「努力義務」とされていることだけを理由に、BCPを後回しにするのは適切ではありません。子どもを預かる施設で「続けられなくなる」とは何が起きることかを考えると、話は変わります。

後で触れますが、この分野のガイドラインは、児童福祉施設等について、非常時においても継続的なサービスが求められる施設と位置づけています。業務を継続できない場合には、子どもの生命や安全が脅かされる可能性があるため、業務継続が重要だとしています。

隣の条では、義務になっています

「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第9条の4は、障害児入所施設等について、同じように感染症や非常災害の発生時に支援を継続し、早期に業務を再開するための計画を策定し、必要な措置を「講じなければならない」としています。

職員への周知と、研修・訓練を定期的に行うことについても義務となっています。

文末だけが違います

第9条の3と第9条の4は、求めている中身がほとんど同じです。感染症や非常災害のときに支援を続けるための計画、早期に業務を再開するための計画。周知と研修・訓練。定期的な見直しです。

大きな違いは、条文の文末です。

第9条の3は「努めなければならない」「努めるものとする」、第9条の4は「講じなければならない」「実施しなければならない」とされています。

この違いによって、認可保育所を含む児童福祉施設では努力義務、障害児入所施設等では義務という位置付けになっています。

先に義務になったのは、障害児の側でした

条文の改正履歴を見ると、第9条の4は令和3年の省令で追加され、その後、令和4年の省令で一部改正されています。一方、第9条の3は令和4年の省令で改正されています。

そのため、障害児入所施設等については、認可保育所などに業務継続計画の規定が設けられるより前から、義務として位置付けられていたことが分かります。

同じ改正で入った「安全計画」は、義務です

「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第6条の3は、児童福祉施設に対し、設備の安全点検や、職員の研修・訓練などを含む安全計画を策定し、必要な措置を「講じなければならない」としています。

また、保育所と児童発達支援センターについては、計画に基づく取組の内容等を保護者へ知らせることも求められています。

ここは「義務」として確認しておきたい

これが、この記事でいちばん伝えたいところです。

業務継続計画が努力義務である一方で、安全計画は義務として定められています。どちらも重要な計画ですが、法令上の位置付けは同じではありません。

計画 条文 位置付け 主な内容
安全計画 第6条の3 義務 設備の安全点検、施設外での活動を含む安全の指導、職員の研修・訓練など。保育所などは保護者への周知も
業務継続計画 第9条の3 努力義務 感染症や非常災害のときに支援を続け、早期に業務を再開するための計画

「BCPは努力義務だから後回し」と考えるのではなく、安全計画など、別に義務として定められている事項がないかも併せて確認することが大切です。

保護者へ知らせるところまで入っている

安全計画のほうには、もう一段あります。保育所と児童発達支援センターについては、計画に基づく取組の内容などを保護者へ知らせなければならない、とされています。

業務継続計画の規定には、保護者への周知についての同様の定めはありません。

事業所内保育は、そもそも業務継続計画の条文が置かれていない

「家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準」には、業務継続計画にあたる条文が置かれていません。

一方、第7条の2では安全計画の策定等が定められ、策定、職員への周知と研修・訓練、保護者への周知などについて「しなければならない」とされています。

企業が自社で持つ保育は、こちら側です

事業所内保育事業は、この省令の対象です。自社の従業員のために保育の場を設けている会社は、こちらの省令を確認する必要があります。

そして、現在の「家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準」には、業務継続計画そのものを定めた条文はありません。

ただし、作らなくてよいとは読めません

ここは慎重に書きます。

これは、あくまで現在確認できる省令の条文上の整理です。国の通知や、自治体の条例・要綱などで別に求められている可能性まで、この条文だけで判断することはできません。

自社の事業所内保育について確認する場合は、認可を受けている自治体にも確認するのが確実です。

それに、規定がないことと、BCPが必要ないことは別です。

会社の中に保育の場があるなら、災害時にその保育をどうするのかは、会社全体のBCPとも関係します。従業員を職場に留め置く判断をするなら、その子どもをどうするのかもセットで考える必要があります。なお会社に泊まることになったときの備えは帰宅困難で会社に泊まる備え|人数で出ない品目と寝る場所の面積に整理しました。

会社のBCPの側に、1行入れておく

ここからはこの記事の整理です。

事業所内保育に業務継続計画の規定がないとしても、会社のBCPの側には書いておくことができます。

災害の日、会社が従業員を職場に留め置く判断をしたとします。その従業員の子どもが、同じ建物の保育の場にいる。すると、保育の場をどうするかも同時に判断する必要があります。

会社のBCPで「優先して続ける業務」を並べるとき、この保育の場をどう扱うのかが決まっているかどうかが重要になります。

逆に、保育の場を閉じる判断をするなら、迎えに来られない保護者の子どもをどうするのかという問題が残ります。

会社のBCPに足す行は、多くありません。

  • 保育の場を開け続けるのか、閉じるのか
  • 閉じる場合、子どもの引き渡しをどうするのか

この2つをあらかじめ整理しておくだけでも、当日の判断を減らすことにつながります。

安全計画のほうは、義務です

業務継続計画の規定がない一方で、安全計画は義務として置かれています。事業所内保育を持っている会社は、まず安全計画が策定され、必要な取組が行われているかを確認してください。

感染症の研修・訓練も、同じ分かれ方をしています

「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第10条では、感染症や食中毒の発生・まん延を防ぐための措置について定められています。児童福祉施設と障害児入所施設等では、規定の内容や義務・努力義務の位置付けが異なる部分があります。

この省令に通っている構造です

同じ省令の中でも、施設の種類によって「努めなければならない」とされているものと、「しなければならない」とされているものがあります。

保育所に求められていることを調べるときは、その条文がどの施設を対象としているのか、そして文末がどうなっているのかを確認するのが確実です。

では、保育所は何をすればよいのか

こども家庭庁には、「児童福祉施設における業務継続ガイドライン」(令和4年3月31日)が掲載されています。

このガイドラインは、感染症、地震、風水害を対象に、BCP策定のポイントを整理したものです。また、施設で検討した内容を書き込むための参考様式も掲載されています。

こども家庭庁「児童福祉施設における業務継続ガイドライン」

書き込む様式が9点ついている

参考資料には、防災組織図と体制、連絡先の一覧、情報収集先の一覧、体調チェックシート、そして優先業務の例などが掲載されています。

ゼロから考える必要がない、ということです。埋める欄が決まっていれば、話し合うべき内容も整理しやすくなります。

優先業務の例は、入所と通所で別に用意されています

感染症のときと災害のとき、それぞれについて、入所施設用と通所施設用の優先業務の例が用意されています。

保育所については、ガイドラインの通所施設用の例を参考にできます。ただし、施設ごとに利用する子どもの年齢や人数、職員体制、地域の状況などが異なるため、そのまま使うのではなく、自施設の実態に合わせて検討することが大切です。

「休めない施設」だと位置づけられています

同じガイドラインは、児童福祉施設等について、子どもの生命及び心身の安全等を支えるために必要不可欠な施設であり、非常時においても継続的なサービスが求められる施設としています。

業務が継続できない場合には、子どもの生命・安全が脅かされる可能性があるため、「業務の継続」が非常に重要だとしています。

そのため、BCPを作る際には、単に「災害が起きたらどう避難するか」だけではなく、限られた職員や設備の中で、何を優先して続けるのかまで考えておくことが重要です。

まず手を付ける3つ

1. 自社がどの省令の対象かを確かめる

認可保育所なら「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」、事業所内保育など地域型保育なら「家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準」を確認します。

ここを取り違えると、調べる条文がずれてしまいます。

2. 安全計画があるかを先に見る

どちらの省令でも安全計画の策定等が定められています。まず、安全計画が策定され、必要な取組が行われているかを確認してください。

そのうえで、BCPについても、自施設に必要な内容を整理していきましょう。

3. 通所の優先業務の例を開く

ガイドラインの参考資料に、通所施設用の優先業務の例があります。感染症のときと災害のときの例を確認し、自分たちの施設に必要な項目を足し引きしていくと、一から考えるよりも進めやすくなります。

今日できることを1つ挙げるなら、手元の計画の表紙を見て、それが「安全計画」なのか「業務継続計画」なのかを確かめることです。

どちらも重要な計画ですが、法令上の位置付けや、計画で扱う内容は同じではありません。

よくある質問

Q. 保育園のBCPは義務ですか、努力義務ですか

A. 施設によって違います。

「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第9条の3は、認可保育所を含む児童福祉施設について、業務継続計画の策定・必要な措置、職員への周知と研修・訓練、定期的な見直しを努力義務としています。

一方、同じ省令の第9条の4は、障害児入所施設等について、業務継続計画に基づく必要な措置や研修・訓練を義務としています。

Q. いつから求められるようになったのですか

A. 認可保育所を含む児童福祉施設については、令和4年の省令改正を経て、令和5年4月1日から業務継続計画の規定が施行されています。なお、障害児入所施設等については、その前の令和3年の省令改正で業務継続計画の規定が追加されています。

Q. 事業所内保育にもBCPは要りますか

A. 「家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準」には、業務継続計画そのものを定めた条文はありません。そのため、省令だけを見ると、認可保育所と同じ形でBCPの策定義務・努力義務が規定されているわけではありません。

ただし、これは条文上の整理です。国の通知や自治体の条例・要綱などで別に求められている可能性まで、この省令だけで判断することはできません。実際の運用については、認可を受けている自治体に確認するのが確実です。

Q. 安全計画とBCPは何が違いますか

A. 目的と扱う内容が違います。

安全計画は、設備の安全点検や、施設外での活動を含む安全の指導、職員の研修・訓練など、安全確保に関する事項を定める計画です。

一方、業務継続計画は、感染症や非常災害の発生時に支援の提供を続け、非常時の体制で早期に業務を再開するための計画です。

つまり、「事故や危険を防ぐための安全計画」と「非常時にも業務を続けるためのBCP」という違いがあります。

Q. 保育所の研修・訓練に回数の定めはありますか

A. 業務継続計画について、保育所に対して具体的な回数を定めた規定はありません。

第9条の3は、「必要な研修及び訓練を定期的に実施するよう努めなければならない」としています。

他の分野では研修・訓練の回数が定められている場合がありますが、それをそのまま保育所に当てはめることはできません。保育所については、自施設のリスクや職員体制などを踏まえて、定期的に訓練・見直しを行うことが重要です。

2026年時点で、今後の動きにも注意

なお、こども家庭庁では2026年8月19日に開催された「第15回 子ども・子育て支援等分科会」において、「保育所等における業務継続計画(BCP)の策定等について」が資料として取り上げられています。

また、2026年度には「児童福祉施設等における業務継続の在り方に関する調査研究」も進められています。

そのため、現在BCPを作成・見直ししている保育所等では、この記事で確認した現行の法令だけでなく、こども家庭庁から今後示される資料や制度上の動きも確認しておくことをおすすめします。

こども家庭庁「第15回 子ども・子育て支援等分科会」

出典

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