目次
感染症のBCP(事業継続計画)について調べると、「従業員の40%が欠勤する前提で計画を作りましょう」と書いた記事が並びます。
この40%という数字は、現在も事業者向けの国のガイドラインに掲載されています。ただし、書いてある場所が変わりました。国の「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」は令和6年7月に約10年ぶりの抜本改定を受けており、その本文に40%という数字はありません。数字が残っているのは、事業者向けのガイドラインのほうです。
移った先では、その数字の出どころが脚注に示され、「これはあくまで目安である」という但し書きも添えられました。
この記事では、内閣感染症危機管理統括庁が公表している資料をもとに、感染症BCPでよく使われる「40%」という数字の位置付けと、政府行動計画の改定で何が変わったのかを整理します。
この記事では、次の5点について解説しています。
- 新しい政府行動計画の本文に、40%の欠勤想定は載っていない
- 40%は事業者向けのガイドラインに残っている
- その数字は「一律の基準」ではなく、業態に応じて柔軟に想定するための目安の一例
- 政府行動計画は約10年ぶりに抜本改定され、対策項目が6項目から13項目に増えた
- 業種別の参考資料や備蓄品リストなど、企業がBCPを検討するための資料も公開されている
「40%は生きています」掲載資料が変わりました
内閣感染症危機管理統括庁の「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」(令和6年7月2日閣議決定)の本文には、従業員の40%が欠勤するという想定は載っていません。
この数字は、「事業者・職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(令和6年8月30日)に置かれています。
内閣感染症危機管理統括庁「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」
新しい行動計画には、40%という数字は出てきません
令和6年7月2日に閣議決定された政府行動計画では、「欠勤」という言葉自体は出てきますが、従業員の40%を欠勤想定とする数字は記載されていません。
そのため、「国の新しい政府行動計画が、すべての企業に40%の欠勤を前提とするよう求めている」と理解するのは正確ではありません。
移った先では、40%が目安として示されています
40%という数字が置かれているのは、「事業者・職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(令和6年8月30日)です。
同ガイドラインは、事業者がBCPを策定する際の社会経済への影響の規模の目安として、「従業員の最大40%程度の欠勤を想定することなどが考えられる」としています。
ここで重要なのは、「40%にしなければならない」と書かれているわけではないことです。
言いまわしが変更しています
旧計画にあたる「新型インフルエンザ対策行動計画」(平成21年2月)では、40%は計画本文の想定として書かれていました。
一方、令和6年の資料では、40%は事業者向けガイドラインに記載され、「目安」として位置付けられています。
| 旧(平成21年の資料) | 新(令和6年の資料) | |
|---|---|---|
| 載っている場所 | 行動計画の本文と、事業者向けガイドライン | 事業者向けガイドライン。政府行動計画の本文にはない |
| 言い方 | 従業員の最大40%程度が欠勤することが想定される | 目安として、例えば、従業員の最大40%程度の欠勤を想定することなどが考えられる |
| 位置付け | 政府行動計画の想定として記載 | 事業者がBCPを検討する際の目安の一例 |
| 但し書き | 地域差や業態による差があるものの | 目安であり、業態に応じた柔軟な想定が重要 |
変わったのは、単純に「40%という数字がなくなった・残った」という話ではありません。その数字をどのような位置付けで使うのかが明確になったと考えると分かりやすいでしょう。
数字と出どころが同じ文に並びました
内閣感染症危機管理統括庁の「事業者・職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(令和6年8月30日)は、40%を挙げた文の脚注で、「米国の国土安全保障会議や労働安全衛生局のガイドライン等」を根拠として、その数字の背景にも触れています。
脚注が、米国の2つの機関を名指ししています
同ガイドラインの脚注では、米国の国土安全保障会議や労働安全衛生局のガイドライン等において、従業員の欠勤率が最大40%と想定されていることなどを踏まえたものだと説明されています。
つまり、40%という数字は、令和6年の政府行動計画改定によって新たに作られた数字ではありません。
「目安であり、業態に応じた柔軟な想定が重要」
同じ脚注には、次のような但し書きがあります。
「当該水準は目安であり、実際には、業態に応じた柔軟な想定が組まれることが重要」
さらに、新型コロナ対応を経たリモートワークの普及や、感染症による影響が長期化する可能性も踏まえる必要があるとしています。
つまり、40%という数字をそのまま自社のBCPに書けばよいわけではありません。
自社の仕事のうち、どの業務が出社を必要とするのか。何人が休んだ場合に、どの業務から止めるのか。リモートワークで継続できる業務はどれなのか。
40%という数字を出発点の一つとして、自社の業態に合わせて人員計画に落とし込むことが重要です。
「40%」だけを写したBCPでは足りません
たとえば従業員100人の会社で、「感染症発生時は40人が欠勤する」とだけ書いてあっても、それだけでは具体的な対応にはつながりません。
重要なのは、その40人が休んだ場合に、何を優先して続けるのかを決めておくことです。
- 止めてはいけない業務は何か
- 縮小できる業務は何か
- 一時的に止められる業務は何か
- 代替できる担当者は誰か
- 在宅勤務に切り替えられる業務は何か
感染症BCPでは、欠勤率の数字と優先業務の整理をセットで考える必要があります。
約10年ぶりの抜本改定で何が変わったか
令和6年7月2日に閣議決定された「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」は、約10年ぶりの抜本的な改定とされています。
対策項目は、従来の6項目から13項目に拡充されました。
旧計画と新計画を並べる
| 旧計画 | 新計画 | |
|---|---|---|
| 対象疾患 | 新型インフルエンザが中心 | 新型コロナや新型インフルエンザ以外の呼吸器感染症も念頭に記載を充実 |
| 平時の準備 | 未発生期として記載 | 「準備期」として、平時からの取組を充実 |
| 対策項目 | 6項目 | 13項目 |
| 複数の感染拡大への対応 | 比較的短期の収束を前提とした構成 | 対策を機動的に切り替える考え方を明記 |
| 実効性確保 | 2017年に一部改定 | 実施状況の毎年度フォローアップ、おおむね6年ごとの改定 |
内閣感染症危機管理統括庁「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」
対策項目は6つから13に増えました
旧計画では、実施体制、サーベイランス・情報収集、情報提供・共有、予防・まん延防止、医療、国民生活・国民経済の6項目でした。
新計画では、実施体制、情報収集・分析、サーベイランス、情報提供・共有・リスクコミュニケーション、水際、まん延防止、ワクチン、医療、治療薬・治療法、検査、保健、物資、国民生活・国民経済の13項目に整理されています。
企業の側から見ると、特に「物資」が独立した項目になったことは注目しておきたいところです。
「未発生期」が「準備期」になりました
言葉の変更ですが、BCPを考えるうえでは意味があります。
「未発生期」は、まだ感染症が発生していない期間という状態を指す言葉です。一方、「準備期」は、その期間に何を準備するのかという行動を意識した言葉になっています。
政府行動計画でも、準備期の取組として、政府・企業による事業継続計画等の策定が挙げられています。
感染症が発生してからBCPを作るのではなく、平時から準備しておくことが位置付けられているわけです。
国が企業に求めていることは3か所に分けて記載されています
「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を読むと、企業のBCPに関係する記載は一か所にまとまっているわけではありません。
行動計画の目的に、事業継続計画が入っています
政府行動計画では、対策の目的の一つとして、事業継続計画の作成や実施等により、医療の提供の業務や国民生活・国民経済の安定に寄与する業務の維持に努めることを挙げています。
つまり、企業のBCPは、単に「会社を守るための社内計画」というだけではなく、感染症流行時に社会機能を維持するための取組の一つとして位置付けられています。
登録事業者には、発生前からの準備が求められます
新型インフルエンザ等対策特別措置法第28条に規定する特定接種の対象となる事業者については、政府行動計画の中で、発生前から職場における感染対策や重要業務の事業継続等の準備を積極的に行うことが重要とされています。
ただし、これはすべての企業が「登録事業者」に該当するという意味ではありません。自社が特定接種の登録事業者に該当するかどうかは、制度上の登録状況などを確認する必要があります。
学校が休みになる分の欠勤も、見込むよう書かれています
政府行動計画ガイドラインのまん延防止に関する章には、地域全体で学校・保育施設等の臨時休業を行う場合についての記述があります。
子どもの保護者が自宅で付き添うことによって出勤できなくなる場合についても、事業所の業務継続計画で見込むことが求められています。
つまり、感染症BCPでは「従業員本人が感染して休む」ケースだけを考えればよいわけではありません。
子どもの休校・休園によって出勤できなくなるケースも、人員計画に含めて考える必要があります。
業種別の下書きが公開されています
内閣感染症危機管理統括庁は、中小事業者が「事業継続力強化計画」を検討する際の参考資料として、9業種の資料を公開しています。
建設業、製造業、卸売業、小売業、学術研究・専門・技術サービス業、宿泊業、飲食サービス業、娯楽業、介護業、サービス業などを対象としています。
これらは「事業継続力強化計画」の参考資料であり、すべての企業がこの様式を使ってBCPを作成しなければならないという意味ではありません。
4つの節でできています
資料は、体制整備、設備・備品、資金繰り、情報の4つの節に分かれています。
各節は、次のような順番で整理されています。
- 「事業活動に与える影響」
- 「事前準備」
- 「その他の事前準備(参考)」
- 「事後対策」
何が起きるのかを先に考え、それに対して平時に何を準備するのか、発生後に何をするのかを分けて整理できます。
BCPを白紙から作る場合のたたき台としても使いやすい構成です。
製造業の例
たとえば製造業の資料には、事前準備として次のような項目が挙げられています。
- 職種ごとの出勤率想定に応じた優先業務表の作成
- 感染が確認された従業員の出勤停止等に関する就業規則上の根拠や個人情報の取扱い、手当についての確認
- 品薄になる可能性が高い原料・資材等の把握と調達先との取り決め
- 業務の属人化を防ぐための業務内容・手順のマニュアル化と共有
- 緊急時の代替要員候補のリスト化
ここでも、「40%」という数字だけで終わらず、欠勤が発生した場合に、どの業務を誰が続けるのかまで落とし込むことが重要だと分かります。
申請をしない会社向けの、簡易版もあります
9業種の資料は「事業継続力強化計画」の認定申請を念頭に置いた作りになっています。
認定申請の予定がない事業者向けには、別に「申請予定のない事業者向け(簡易版:業種共通ほか)」も用意されています。
BCPのたたき台をまず1枚作ってみたいという場合には、このような簡易版から始める方法もあります。
備蓄品リストはExcelの様式ごと公開されています
内閣感染症危機管理統括庁が公開している「(別表2)備蓄品リスト」には、感染症発生時に備える物資の例があらかじめ記載されたExcel様式があります。
ここで注意したいのは、このリストがすべての企業に対する一律の備蓄義務や、全企業共通の必要数量を示したものではないということです。
14品目が最初から入っています
様式には、次の14品目が掲載されています。
| № | 品目 | № | 品目 |
|---|---|---|---|
| 1 | マスク(不織布製マスク) | 8 | せっけん・液体せっけん |
| 2 | 体温計(非接触型体温計) | 9 | ウエットティッシュ |
| 3 | ゴム手袋(使い捨て) | 10 | ゴミ袋 |
| 4 | 消毒用アルコール | 11 | 食料 |
| 5 | トイレットペーパー | 12 | 飲料 |
| 6 | ティッシュペーパー | 13 | 寝具 |
| 7 | 保湿ティッシュ | 14 | 内服薬(解熱鎮痛剤) |
地震の備蓄と比べると、衛生用品が多く含まれていることが分かります。食料と飲料も掲載されていますが、感染症BCPでは、感染対策や衛生管理に必要な物資も重要になります。
記入例に入っている数量
この様式には、マスク、ゴム手袋、体温計について記入例があります。
| 品目 | 必要量(日・人) | 記入例 |
|---|---|---|
| マスク(不織布製マスク) | 1枚/日・人 | 14日分×100人分=1,400枚 |
| ゴム手袋(使い捨て) | 3枚/日・人 | 14日分×30人分=1,260枚 |
| 体温計(非接触型体温計) | ―(人数比ではない) | 3本 |
ただし、これらは様式に記載された記入例・目安です。すべての企業が同じ数量を備蓄しなければならないという意味ではありません。
実際の必要数は、従業員数、勤務形態、業務内容、感染対策の方法などに応じて検討する必要があります。
保管場所・管理責任者・確認サイクルの欄があります
この様式には、品目と数量だけでなく、保管場所、管理責任者、確認サイクル、最終確認日、調達先などの欄も用意されています。
感染症への備えでは、「何を買うか」だけでなく、どこに置き、誰が管理し、いつ確認するのかまで決めておくことが重要です。
備蓄品を購入しただけで終わらず、数量や状態を定期的に確認できる仕組みにしておきましょう。
地震の備蓄とは日数の考え方が違います
内閣感染症危機管理統括庁の「備蓄品リスト」の記入例は14日分で作られています。一方、地震を想定した職場の備蓄では、3日分という考え方がよく使われます。
ただし、「感染症は14日分、地震は3日分」と国がすべての企業に一律に定めているわけではありません。
3日分と14日分
地震の場合は、建物や道路などの被害によって、一定期間その場にとどまることが想定されます。
一方、感染症では、建物や道路が使えなくなるとは限りません。従業員の感染や濃厚接触、学校・保育施設等の臨時休業などによって、人員が不足する形で業務に影響が出る可能性があります。
さらに、感染症によっては流行が長期化したり、複数の感染の波が生じたりする可能性もあります。
そのため、感染症BCPでは、地震用の備蓄とまったく同じ考え方で数量を決めるのではなく、感染症が発生した場合に、自社で何が不足するのかを考えて備蓄量を決めることが重要です。
仕事が減らない会社もあります
感染症では、需要が落ちる会社だけでなく、逆に業務量が増える会社もあります。
医療・介護などのように、感染症の流行によって業務量が増える業種では、「人が休むから仕事を減らす」という考え方だけではBCPを作れません。
自社が感染症の流行によって「仕事が減る側」なのか、「仕事が増える側」なのかも確認しておきましょう。
よくある質問
Q. 感染症のBCPで、従業員の欠勤は何%を想定すればよいですか
A. 40%は、国の事業者向けガイドラインに示されている「目安の一例」です。
内閣感染症危機管理統括庁の「事業者・職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(令和6年8月30日)は、「従業員の最大40%程度の欠勤を想定することなどが考えられる」としています。
ただし、同じ資料は、この水準は目安であり、実際には業態に応じた柔軟な想定が重要だとしています。
自社の業務内容やリモートワークの可否、代替要員の有無などを踏まえて、自社に合った想定を設定することが重要です。
Q. 40%という数字は、どこから来たのですか
A. 米国の国土安全保障会議や労働安全衛生局のガイドライン等を踏まえたものだと、現在の事業者向けガイドラインの脚注で説明されています。
なお、この数字は令和6年の政府行動計画改定で新しく作られたものではありません。以前の政府資料でも同程度の欠勤が想定されていました。
Q. 新しい政府行動計画で、企業がやることは変わりましたか
A. 政府行動計画では、平時を「準備期」として位置付け、政府・企業による事業継続計画等の策定を取組の一つとして明記しています。
また、対策項目が6項目から13項目に拡充され、物資も独立した項目になりました。
企業側としては、感染症発生時の人員計画だけでなく、感染対策に必要な物資の確保や管理についても、平時から確認しておくことが重要です。
Q. 感染症の備蓄は、地震の備蓄と何が違いますか
A. 想定するリスクと、必要になる物資・数量の考え方が違います。
内閣感染症危機管理統括庁の「備蓄品リスト」の記入例では、マスクとゴム手袋について14日分の数量が示されています。
ただし、これはすべての企業に一律に14日分の備蓄を求めるものではありません。自社の業務内容や従業員数、感染症発生時の勤務体制などに合わせて検討する必要があります。
感染症BCPで、まず確認したい5つ
ここまでを、実際にBCPを作る側の視点で整理すると、まず確認したいのは次の5つです。
- 何%の欠勤を想定するか
40%をそのまま採用するのではなく、自社の業態に合わせて考える。 - 誰が休む可能性があるか
本人の感染だけでなく、子どもの休校・休園などによる欠勤も考える。 - 何の業務を優先するか
人員が減ったときに、最優先で続ける業務を決める。 - 何を備蓄するか
マスクなどの衛生用品だけでなく、自社の業務に必要な物資を洗い出す。 - 誰が・どこで・いつ管理するか
備蓄品を買うだけでなく、保管場所、管理担当者、確認サイクルまで決める。
感染症BCPは、「感染者が出たときにどうするか」だけを決めるものではありません。
人が減っても仕事を続けるために、どの業務を残し、何を準備しておくのか。
そこまで具体的にしておくことで、実際の感染症流行時にも判断しやすいBCPになります。
出典
- 内閣感染症危機管理統括庁「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」(令和6年7月2日閣議決定)
- 内閣感染症危機管理統括庁「新型インフルエンザ等対策政府行動計画ガイドライン」(令和6年8月30日)
- 内閣感染症危機管理統括庁「事業継続力強化計画の参考資料」
- 内閣感染症危機管理統括庁「備蓄品リスト」
- 厚生労働省「社会福祉施設・事業所における新型インフルエンザ等発生時の業務継続ガイドラインなど」
