BCP COLUMN 業種別のBCP

介護BCPで求められる3つの柱|研修・訓練の回数とひな形の使い方

公開日 2026.09.16 最終更新 2026.10.01 読了目安 14分
明るい介護施設の廊下。手前の壁際に紺色の車いすが1台置かれ、壁に手すりが続いている。奥で白い制服の人がワゴンを押している。窓から日が差している。
目次

介護事業所のBCP(業務継続計画)は、「作ったほうがよい計画」という位置づけではありません。運営基準で策定などが求められており、介護報酬にも「業務継続計画未策定減算」が設けられています。

ただし、介護BCPは計画書を作成すれば終わりではありません。実際に災害や感染症が発生したときに職員が動けるようにしておくこと、訓練などで見つかった課題を計画に反映することまで含めて考える必要があります。

介護BCPを整理すると、ポイントは大きく次の3つの柱に分けられます。

  1. BCPを策定する――感染症と自然災害の両方について、業務継続の方法を決める
  2. 研修・訓練を行う――職員がBCPの内容を理解し、実際に動けるようにする
  3. 見直しを行う――訓練や環境の変化で見つかった課題をBCPに反映する

この記事では、この3本柱を中心に、介護BCPで何を決めるのか、研修・訓練は何回必要なのか、厚生労働省のひな形をどう使えばよいのかを整理します。

介護BCPの3本柱とは?

介護BCPで重要なのは、「計画を作る」「職員が動けるようにする」「計画を更新する」という3つを一連の流れとして考えることです。

1.BCPを策定する

まず、感染症や自然災害が発生した場合でも、必要な介護サービスをどのように継続するのかを計画します。

具体的には、誰が判断するのか、どの業務を優先するのか、職員が不足した場合はどうするのか、ライフラインが止まった場合にどう対応するのかなどを整理します。

感染症と自然災害では、事業所に与える影響が異なります。そのため、それぞれについて業務継続の方法を考える必要があります。

2.研修・訓練を行う

BCPを作成しても、実際に対応する職員が内容を知らなければ、緊急時には機能しません。

そのため、作成したBCPを職員などの関係者に周知し、研修や訓練を行います。

研修ではBCPの内容を理解し、訓練では実際の状況を想定して動けるかを確認する、と考えると整理しやすくなります。

3.見直しを行う

訓練を行うと、「連絡先が古い」「担当者が不在だった場合の代替者が決まっていない」「備蓄品の場所が分からない」といった問題が見つかることがあります。

こうした課題をBCPに反映し、必要に応じて内容を修正します。

また、職員の入れ替わり、施設の増改築、設備の変更、地域のハザードマップの更新など、事業所を取り巻く条件が変わったときも、BCPを確認する機会になります。

「作る→訓練する→見直す」という流れを繰り返すことが、介護BCPを実際に使える状態にしておくポイントです。

介護のBCPは、努力目標ではない

内閣府の令和7年度「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」では、「医療、福祉」でBCPを「策定済みである」と回答した割合は90.3%でした。全業種の中でも高い割合となっています。

ただし、この調査の「医療、福祉」は介護事業所だけを対象とした数字ではありません。医療機関と福祉事業所を含む業種区分です。

そのため、この90.3%をそのまま「介護事業所のBCP策定率」と考えることはできません。

介護事業所では、BCPの策定などが求められている

介護事業所については、介護保険の運営基準で業務継続計画の策定などが求められています。

令和3年度の介護報酬改定では、感染症や災害が発生した場合でも必要な介護サービスを継続できるよう、業務継続計画の策定、研修・訓練の実施などが求められることとなり、令和6年3月末までの経過措置が設けられました。

現在は、単にBCPを作成しているかだけでなく、その内容を職員に周知し、訓練などを通じて実際に機能する状態にしておくことが重要です。

作っていないと、基本報酬が減るのか

令和6年度の介護報酬改定では、「業務継続計画未策定減算」が設けられました。

原則として、感染症または災害の業務継続計画が未策定である場合や、BCPに従って必要な措置が講じられていない場合に、基本報酬が減算される仕組みです。

施設・居住系は3%、その他のサービスは1%が基本

令和6年度の改定では、施設・居住系サービスは所定単位数の3%、その他のサービスは1%を減算する仕組みが設けられました。

ただし、すべてのサービスが同じ時期・同じ条件で減算されるわけではありません。

一部サービスの経過措置は、令和7年3月31日で終わっている

訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、福祉用具貸与、居宅介護支援など、一部のサービスには、令和7年3月31日まで業務継続計画未策定減算を適用しない経過措置がありましたが、この期限はすでに過ぎています。

また、居宅療養管理指導や特定福祉用具販売など、減算の対象外となっているサービスもあります。対象サービスや経過措置は制度改定によって変わるため、実際の運用では最新の厚生労働省資料や指定権者の案内を確認してください。

なお、減算の適用対象外となる経過措置があることと、BCPの策定などが不要であることは同じではありません。制度上の義務と、報酬上の減算の適用時期は分けて考える必要があります。

1本目の柱「BCPを策定する」

感染症と自然災害の両方を想定する

介護事業所では、感染症と自然災害の両方について業務継続を考える必要があります。

厚生労働省は、感染症に関する業務継続ガイドラインと、自然災害に関する業務継続ガイドラインをそれぞれ公開しています。

なお、「2種類のBCP」という場合も、必ず別々のファイルや冊子にしなければならないという意味ではありません。感染症と自然災害、それぞれに必要な内容を盛り込んでいれば、事業所の実情に応じて一体的に整理することもできます。

BCPと、ほかの防災計画を整理する

介護の現場では、BCP以外にも災害に関係する計画があります。

厚生労働省の自然災害BCPガイドラインでは、消防計画、避難確保計画、非常災害対策計画と、業務継続計画(BCP)の違いが整理されています。

計画 主な対象 主な内容
消防計画 火災 消火・通報・避難など
避難確保計画 洪水・土砂災害・津波など 避難に関する計画、避難訓練など
非常災害対策計画 想定される災害 非常災害時の対応、避難訓練など
業務継続計画(BCP) 自然災害・感染症 重要な業務を継続・早期復旧するための計画
避難するまでの計画と、避難した後の計画発災避難完了業務の継続・復旧消防計画/避難確保計画/非常災害対策計画火災・風水害・想定される全ての災害逃げ切るまでを担う業務継続計画(BCP)自然災害と感染症の2本立て避難した後、利用者の生活を支え続ける研修・訓練がセットで義務入所系は研修・訓練ともに年2回以上、通所系・訪問系は年1回以上(感染症を含む)
出典:厚生労働省「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」の整理をもとに作成

それぞれは目的や根拠となる制度が異なります。BCPだけで他の計画を置き換えられる、という関係ではありません。

BCPは「避難した後」だけの計画ではない

「BCPは避難した後の計画」と説明されることがありますが、これは少し単純化しすぎています。

厚生労働省のガイドラインでは、防災計画が「身体・生命の安全確保」や「物的被害の軽減」を主な目的とするのに対し、BCPでは、それに加えて「優先的に継続・復旧すべき重要業務」を考えると整理されています。

そのため、BCPでは災害発生後だけでなく、平常時から設備や備蓄、連絡体制、職員体制などを準備しておくことも重要です。

自然災害では、まず初動とライフラインを整理する

自然災害BCPでは、まず「誰が判断するのか」を決め、そのうえで事前の対策と発生時の対応を整理します。

厚生労働省のガイドラインでは、情報を集めて判断する体制として、意思決定者、各業務の担当者、関係者の連絡先や連絡フローを整理することがポイントとして挙げられています。

夜間や休日に災害が発生した場合、最初に誰が判断するのか。管理者に連絡がつかない場合は誰が代わるのか。こうした点まで事前に決めておきます。

また、電力、エレベーター、飲料水、生活用水、ガス、携帯電話、メールなどについて、災害発生後の影響を時系列で整理しておくと、必要な備えが見えやすくなります。

感染症では、職員不足を含めて業務を考える

感染症が発生した場合には、職員や利用者の感染状況を確認しながら、必要なサービスをどう継続するかを考える必要があります。

特に介護事業所では、職員の欠勤などによって通常の人員体制を維持できなくなる可能性があります。

そのため、応援職員の確保、業務の優先順位、感染拡大防止策、関係機関との連絡などをあらかじめ整理しておきます。

感染対策マニュアルとBCPは同じではない

感染対策マニュアルは、感染を防ぐための具体的な手順を整理するものです。

一方、BCPでは、感染症が発生して職員や利用者に影響が出た場合でも、必要な業務をどのように継続するかを考えます。

そのため、感染対策マニュアルを整備していても、それだけで感染症BCPの代わりになるわけではありません。

優先する事業と業務を決める

複数の事業を行っている場合は、災害時にどの事業を優先するのか、どの事業を縮小・休止するのかをあらかじめ検討しておきます。

そのうえで、優先する事業の中から、さらに優先する業務を整理します。

厚生労働省のガイドラインでは、優先業務を洗い出す際に、最低限必要な職員数についても検討しておくことが有用とされています。

2本目の柱「研修・訓練を行う」

研修と訓練は、役割が少し違う

研修では、職員がBCPの内容や自分の役割を理解することを目的とします。

一方、訓練では、実際に災害や感染症が発生した場面を想定して、連絡、判断、職員配置、優先業務などを実際に動かして確認します。

そのため、BCPの内容を説明するだけでなく、実際に動いてみることが重要です。

入所系は年2回以上、通所・訪問系は年1回以上

厚生労働省のガイドラインでは、BCPに関する研修・訓練について、入所系は年2回以上、通所系・訪問系は年1回以上とされています。この回数には感染症に関する研修・訓練も含まれます。

サービス類型 研修・訓練の回数
入所系 年2回以上
通所系 年1回以上
訪問系 年1回以上

「回数をこなす」ことが目的ではない

回数を満たすことだけを目的にすると、BCPの内容を読み上げて終わる研修になってしまうことがあります。

たとえば、災害発生時に管理者が不在だった場合、誰が判断するのか。職員が予定どおり集まらなかった場合、どの業務を優先するのか。連絡先がつながらなかった場合はどうするのか。

こうした具体的な場面を想定すると、BCPの問題点も見つけやすくなります。

机上訓練の資料も公開されている

厚生労働省は、介護施設・事業所向けのBCP作成支援資料や、机上訓練に関する資料・動画も公開しています。

入所系、通所系、訪問系、居宅介護など、サービス類型に応じた研修資料や訓練の解説が用意されています。

3本目の柱「見直しを行う」

訓練で見つかった問題を、そのままにしない

訓練をしてみたら、連絡先が古かった、担当者が不在だった、備蓄品の場所が分からなかった、といった問題が見つかることがあります。

こうした問題をそのままにせず、BCPを修正し、次の訓練で確認します。

この繰り返しによって、BCPを実際の事業所で使える内容に近づけていきます。

事業所の環境が変わったときも見直す

BCPを見直すきっかけは、訓練だけではありません。

  • 職員の入れ替わり
  • 施設の増改築
  • 設備や機器の変更
  • 利用者数やサービス内容の変化
  • 連絡先・連携先の変更
  • 地域のハザードマップなどの更新

こうした変化があった場合は、現在のBCPと実際の事業所の状況が合っているかを確認します。

厚労省のひな形を使って作成できる

BCPをゼロから作ろうとすると、「何を書けばよいのか分からない」という問題が出てきます。

厚生労働省は、介護施設・事業所向けにBCPのガイドラインやひな形を公開しています。

感染症については入所系・通所系・訪問系のひな形が用意されています。自然災害についても、共通部分とサービス固有部分のひな形があります。

感染症はサービス類型に応じてひな形を選ぶ

感染症BCPは、入所系、通所系、訪問系に分かれています。

同じ介護サービスでも、利用者との接し方や職員の勤務形態が異なるため、自事業所に合ったひな形を使うことが重要です。

自然災害は共通部分とサービス固有部分がある

自然災害BCPのひな形には、複数のサービスに共通する部分と、サービス固有の部分があります。

まず共通部分を確認し、そのうえで自事業所のサービス内容に合わせて具体化していくと整理しやすくなります。

ひな形を使っても、中身は自事業所で決める

ひな形は、BCPをゼロから作るための項目や考え方を整理するのに役立ちます。

一方、優先する業務、必要な職員数、連絡先、備蓄量、避難先、代替手段などは、事業所ごとに異なります。

厚生労働省の自然災害BCPガイドラインも、ひな形の各項目を参考にしながら、各施設・事業所で具体的な対応を検討して記載することを想定しています。

他の事業所のBCPをそのままコピーするのではなく、自事業所の実情に合わせて内容を埋めていくことが重要です。

介護施設の事務室の机。厚さの違う2冊のファイルが重ねて置かれ、背表紙のラベルは白紙。手前に眼鏡とボールペン、奥に車いすと書類棚。

職員の安全も、BCPの一部

介護サービスを継続することを考えるとき、利用者だけでなく職員の安全も考える必要があります。

職員に過度な負担をかけない

厚生労働省の自然災害BCPガイドラインでは、災害時の業務継続によって長時間勤務や精神的な負担が生じる可能性があることを示し、労働契約法第5条の安全配慮義務にも触れています。

職員が被災する可能性も考え、最初から通常時と同じ人数が集まる前提でBCPを作らないことが重要です。

参集できる人数を前提に組む

災害時には、職員自身の被災、家族の安否確認、交通機関の停止などによって、予定どおり参集できない可能性があります。

そのため、実際に参集できる職員数を想定し、その人数で優先業務をどう回すかを検討しておきます。

管理者が来られない場合の代替者や、夜間・休日に発生した場合の連絡体制も確認しておきましょう。

まず、何から手を付けるか

BCPをこれから作る場合、最初からすべてを完璧に埋めようとする必要はありません。

ひな形を開いて、分かるところから埋める

まずは事業所の基本情報、職員数、設備、利用者数など、すでに分かっている情報から記入します。

分からない項目が出てきたら、その項目が次に確認するべき課題になります。

連絡先と担当を固める

次に、意思決定者、各担当者、関係機関などの連絡先を整理します。

連絡先は職員の異動などで変わるため、定期的に更新する仕組みも決めておくと安心です。

年間の研修・訓練日を先に決める

入所系なら年2回以上、通所系・訪問系なら年1回以上という回数を踏まえ、年度の早い段階で予定を決めておくと実施しやすくなります。

ただし、予定回数を実施するだけで終わらせず、訓練で見つかった課題をBCPの修正につなげることが重要です。

よくある質問

Q. 介護BCPの3本柱とは何ですか?

A. 「BCPを策定する」「研修・訓練を行う」「見直しを行う」の3つです。計画を作成するだけでなく、職員が内容を理解して実際に動けるようにし、訓練などで見つかった課題を計画に反映するところまでを一連の取組として考えます。

Q. 介護事業所のBCPで、感染症と自然災害の両方を考える必要がありますか?

A. はい。感染症と自然災害の両方について、業務継続の方法を整理する必要があります。ただし、必ず別々のファイルや冊子にしなければならないという意味ではありません。事業所の実情に応じて一体的に整理することもできます。

Q. 介護事業所の研修と訓練は年に何回必要ですか?

A. 厚生労働省のガイドラインでは、入所系は年2回以上、通所系・訪問系は年1回以上とされています。感染症に関する研修・訓練もこの回数に含まれます。

Q. BCPを作っていないと、必ず報酬が減りますか?

A. 業務継続計画未策定減算がありますが、サービスによって適用時期や経過措置が異なります。訪問系サービスや居宅介護支援など一部のサービスには、令和7年3月31日まで減算を適用しない経過措置がありましたが、この期限はすでに過ぎています。また、居宅療養管理指導など減算の対象外となっているサービスもあります。最新の対象サービスや適用条件は、厚生労働省の通知等を確認してください。

Q. BCPのひな形はどこにありますか?

A. 厚生労働省が、介護施設・事業所向けの感染症BCP・自然災害BCPのガイドラインやひな形、研修資料などを公開しています。サービス類型に応じた資料が用意されているため、自事業所に合ったものを確認するとよいでしょう。

出典

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