目次
南海トラフ地震臨時情報(以下、臨時情報)が発表されたとき、会社は休むべきなのか。出張は止めるのか。イベントは中止か。判断を迫られる立場になって初めて、決め事が何もないことに気づくことがあります。
国のガイドラインには、事業者向けの考え方が書かれています。結論から言えば、臨時情報が発表されたからといって、すべての企業に一律の休業が求められるわけではありません。安全確保のために必要な措置を講じたうえで、社会経済活動を継続することが基本とされています。
この記事では、公開資料をもとに、臨時情報が出たときに会社が何を判断すべきかを整理します。
この記事でわかることは、次の5点です。
- 臨時情報が出ても、一律に休業するという考え方ではない
- ただし、生命に危険が及ぶ活動については、危険を回避する措置が必要になる
- 「巨大地震警戒」と「巨大地震注意」では対応期間が異なる
- 対応期間は地震の発生を予測して設定されたものではない
- 臨時情報が発表される前に、自社の判断基準を決めておくことが重要
臨時情報は「休業の指示」ではない
内閣府「南海トラフ地震臨時情報 防災対応ガイドライン」(令和7年8月改訂)では、臨時情報が発表された場合、日頃からの地震への備えを再確認し、必要な防災対応をとったうえで、社会経済活動を継続することが基本とされています。
国が示しているのは、止めることだけではない
内閣府の「南海トラフ地震臨時情報 防災対応ガイドライン」には、住民、地方公共団体、事業者それぞれの対応が整理されています。
前提となっているのは、地震の発生時期・規模・場所を確度高く予測することは難しいということです。そのうえで、臨時情報が発表された場合には、地域や利用者等の安全確保と社会経済活動の継続とのバランスを考えながら、それぞれが必要な対応を判断することが重要とされています。
つまり、臨時情報が出たら全社休業、という一律の対応を国が求めているわけではありません。安全確保のために必要な措置を講じながら、必要な事業を継続することが基本的な考え方です。
ただし、生命に危険が及ぶ活動は回避する
一方で、例外なく事業を続ければよいという意味でもありません。
臨時情報(巨大地震警戒)が発表された場合、住民事前避難対象地域に位置する事業者等については、通常どおり企業活動をした場合に生命に危険が及ぶ活動について、避難するなどの危険回避措置を検討する必要があります。
ただし、内閣府のガイドラインは、事前避難対象地域内にあるすべての事業者等に事業中止を求めているわけではありません。危険回避措置をとりながら事業を継続できる場合には、その対応が推奨されています。
具体的には、津波の危険がある地域での屋外作業や、後発地震が発生した場合に生命への危険が明らかな活動などが、検討の対象になります。
自社の拠点や作業がこうした条件に当たるかどうかを、臨時情報が発表される前に確認しておくことが重要です。
判断は、各社の状況によって変わる
ガイドラインでは、事業者が防災対応を検討する際、自社の立地や業種、施設の状況などを踏まえることが示されています。
自社の建物がどの程度の揺れに耐えられるのか、津波の浸水想定に入っているのか、従業員の通勤経路がどうなっているのか。条件が違えば必要な対応も変わります。
そのため、「国の指示が出てから考える」のではなく、あらかじめ判断材料と基準を自社で整理しておくことが重要になります。
臨時情報には、種類と期間がある
南海トラフ地震臨時情報には、「巨大地震警戒」と「巨大地震注意」があります。発表されたキーワードによって、求められる防災対応と期間が異なります。
巨大地震警戒と、巨大地震注意
臨時情報(巨大地震警戒)が発表された場合は、先発地震の発生から1週間が「巨大地震警戒対応」となり、その後の1週間は「巨大地震注意対応」となります。
一方、臨時情報(巨大地震注意)が発表された場合は、先発地震の発生から1週間が「巨大地震注意対応」となります。
臨時情報(警戒)が出た場合の二段構え
臨時情報(巨大地震警戒)が発表された場合、最初の1週間は「巨大地震警戒対応」です。
この期間は、事前避難対象地域での避難に加えて、日頃からの地震への備えの再確認や、すぐに避難できる態勢の維持などを行い、そのうえで社会経済活動を継続することが基本とされています。
1週間を過ぎた後は、さらに1週間の「巨大地震注意対応」に移ります。ここでは、通常の生活や企業活動を行いながら、引き続き地震への注意を続けます。
つまり、臨時情報(巨大地震警戒)が発表された場合は、企業としても最長で2週間を見据えた対応をあらかじめ考えておく必要があります。
| 発表された情報 | 最初の1週間 | 1週間~2週間 | 事前避難 |
|---|---|---|---|
| 臨時情報(巨大地震警戒) | 巨大地震警戒対応 | 巨大地震注意対応 | 事前避難対象地域で実施 |
| 臨時情報(巨大地震注意) | 巨大地震注意対応 | ― | 原則として伴わない |
なお、ひずみ計などで観測される「ゆっくりすべり」が原因となる臨時情報については、対応期間の考え方が異なります。対応期間を一律に1週間と決められるわけではないため、発表された情報の内容を確認する必要があります。
期間中に、もう一度発表されたら
対応期間の途中で、再び一定規模以上の地震が発生し、新たな臨時情報が発表された場合には、その地震を起点として対応期間が設定されます。
そのため、最初に決めた終了日だけを見て対応を終えるのではなく、新たに発表された情報の内容を確認して、対応期間を改めて判断する必要があります。
「1週間」の意味を、誤解しない
内閣府の臨時情報ガイドラインでは、臨時情報発表後の防災対応を求める期間について、地震活動等の観測や予測に基づいて設定されたものではないことが示されています。

期間は、地震の予測から決めたものではない
ここは、社内で説明するときにも注意したいところです。
「1週間たてば地震の危険がなくなる」という意味で1週間が設定されているわけではありません。
臨時情報は、平常時と比べて南海トラフ沿いで大規模地震が発生する可能性が相対的に高まったと評価された場合に発表されるものです。一方、その後に実際に大規模地震が発生するかどうかは不確実です。
そのため、「1週間で安全になるから我慢する」という理解ではなく、「一定期間、通常より高い警戒を続けるための防災対応期間」と捉えることが重要です。
期間が明けることは、安全宣言ではない
対応期間が終わっても、南海トラフ地震が発生する可能性そのものがなくなったわけではありません。
臨時情報が発表されていない平常時にも、南海トラフ地震への備えは必要です。期間終了後は、臨時情報に伴う特別な対応を終えて、通常時の防災対策に戻るという意味で捉える必要があります。
社内にどう伝えるか
社内への説明では、「1週間で危険がなくなるわけではない」という点をあらかじめ共有しておくと、対応期間終了後の認識のずれを防ぎやすくなります。
期間の開始・終了だけでなく、「なぜその期間なのか」「終了後も通常の地震への備えは続ける」というところまで伝えておくことが大切です。
自社の所在地が、どの地域に入っているか
臨時情報への対応を考えるときは、自社の所在地が「南海トラフ地震防災対策推進地域」に含まれているか、また津波避難対策に関する特別強化地域に該当するかを確認しておく必要があります。
南海トラフ地震防災対策推進地域は、どう線引きされているか
南海トラフ地震防災対策推進地域には、震度6弱以上となることが見込まれる地域や、津波による被害が想定される地域などについて、一定の指定基準が設けられています。
また、過去の地震による被害や、防災体制上の必要性なども指定基準に含まれています。
そのため、「海から遠いから関係ない」「揺れがそれほど大きくない地域だから関係ない」と単純に判断するのではなく、内閣府が公開している指定地域の一覧で確認するのが確実です。
もう一段厳しい線引きがある
「南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域」は、南海トラフ地震による津波について、より迅速な避難が必要となる地域です。
指定基準では、想定される津波により、地震発生から30分以内に30cm以上の浸水が生じる地域などが対象とされています。
これは、単純に「30分以内に30cm浸水するから、その地域の会社は休業する」という意味ではありません。津波の到達時間や避難に要する時間などを踏まえ、後発地震に備えた避難対応を検討するための地域区分です。
市町村一覧と地図が公開されている
どの市町村が指定されているかは、内閣府が一覧や地図を公開しています。
自社の所在地だけでなく、主要な取引先、物流拠点、委託先などについても確認しておくと、臨時情報発表時の影響を想定しやすくなります。
自社が指定地域の外にあっても、仕入先や委託先などが指定地域内にあれば、物流や業務に影響が及ぶ可能性があります。自社の所在地だけでなく、サプライチェーン全体を確認しておくことが重要です。
事前避難対象地域は、市町村の情報を確認する
臨時情報(巨大地震警戒)が発表されたときに事前避難が必要となる「事前避難対象地域」は、南海トラフ地震防災対策推進基本計画等に基づいて、市町村が地域の実情を踏まえて設定します。
自社の拠点が事前避難対象地域に含まれるかどうかは、所在地の市町村が公表している情報を確認しておく必要があります。
この地域に拠点がある場合は、従業員や利用者の安全確保、避難の必要性などを含めて、事前に対応を決めておくことが重要です。
ガイドラインには「事業者編」がある
内閣府の「南海トラフ地震臨時情報 防災対応ガイドライン」(令和7年8月改訂)は、共通編、地方公共団体編、事業者編の3部構成になっています。
共通編・地方公共団体編・事業者編の3構成
企業が確認する場合は、ガイドラインの「Ⅲ.事業者編」が中心になります。
事業者編では、南海トラフ地震に関するBCPの確認、防災対応を検討するための前提条件、巨大地震警戒対応、巨大地震注意対応、情報伝達、従業員等の安全確保などが整理されています。
特に「事業者等の防災対応の検討」では、臨時情報(警戒)が発表された場合に、必要な事業を継続するための措置と、後発地震に備えた防災対応を組み合わせて検討することが示されています。
ライフライン事業者には、別の役割がある
水道、電気、ガス、通信、放送などについては、南海トラフ地震防災対策推進基本計画の中で、継続や確保に関する役割が位置づけられています。
これらの事業に関わる会社は、自社の事業継続だけでなく、自社が停止した場合に地域や取引先にどのような影響が及ぶのかまで考える必要があります。
交通・物流にも影響する
道路や鉄道についても、臨時情報発表時の防災対応が検討されています。
そのため、配送や出張の可否を考えるときには、自社だけでなく、交通機関や物流網の対応によって移動が制限される可能性も考慮しておく必要があります。
臨時情報が出るまでの流れを知っておく
内閣府の臨時情報ガイドラインは、地震の発生時期・規模・場所について「確度の高い予測は困難である」という前提に立っています。
気象庁が評価し、情報が出る
南海トラフ沿いで異常な現象が観測されると、気象庁がその現象について評価を行い、その結果に応じて「南海トラフ地震臨時情報」が発表されます。
つまり臨時情報は、「○日に地震が来る」という予告ではありません。平常時と比べて、南海トラフ沿いで大規模地震が発生する可能性が相対的に高まったと評価されたことを知らせる情報です。
ガイドラインは、あらかじめ決めておくための資料
ガイドラインは、臨時情報が発表された後にその場で対応を考えるためだけの資料ではありません。
住民、自治体、事業者などが、臨時情報が発表された場合に戸惑うことなく対応できるよう、平時から対応を検討しておくための資料です。
企業にとっては、自社のBCPに臨時情報発表時の対応を組み込むための参考資料として活用できます。
後発地震への備えという考え方
臨時情報による防災対応は、先に起きた地震(先発地震)の後に、さらに大規模な地震(後発地震)が起きる可能性に備えるという考え方で組まれています。
ただし、後発地震が必ず起きるという意味ではありません。臨時情報が発表された場合でも、実際に後発地震が発生するかどうかは不確実です。
発表されてから考えると、間に合わない
臨時情報(巨大地震警戒)が発表された場合、企業としては警戒対応1週間、その後の注意対応1週間を見据えて判断する必要があります。
何を止めて何を続けるか
臨時情報(巨大地震警戒)が発表された場合、内閣府のガイドラインでは、事業者に対して必要な事業を継続するための措置を検討することが示されています。
一部の従業員が出社できない可能性や、被災地域における関連業務への影響などを踏まえ、場合によっては優先度の高い業務を選択することも必要になります。
自社の業務を、例えば「継続するもの」「縮小するもの」「停止するもの」の3つにあらかじめ整理しておくと、臨時情報が発表された際の判断材料になります。
すでにBCPがある場合は、その中で定めている優先業務や代替手段を活用できます。
出張、イベント、来客をどう扱うか
臨時情報への対応期間と催し物などが重なる場合についても、内閣府のQ&Aでは、個々の状況を踏まえて安全確保と社会経済活動の継続を検討する考え方が示されています。
特に、生命に危険が及ぶことが明らかな活動については、危険を回避するための措置が必要です。
自社でイベントや出張などが多い場合は、「どのような条件なら延期・中止するのか」「どの条件なら安全対策を講じたうえで実施するのか」をあらかじめ整理しておくと、現場ごとの判断のばらつきを抑えやすくなります。
従業員への伝え方を、決めておく
臨時情報が発表されると、従業員からは「出社するのか」「いつまで続くのか」「自分の地域は避難対象なのか」といった質問が出る可能性があります。
そのため、臨時情報発表時に従業員へ伝える内容を、平時からある程度用意しておくと対応しやすくなります。
期間の考え方、出社の扱い、判断が変更された場合の連絡手段などを整理しておきましょう。
また、事前避難対象地域に住んでいる従業員など、個々の事情によって会社の判断と家庭側の対応が一致しない場合もあります。個別事情を考慮できる余地も含めて、社内ルールを考えておくことが重要です。
平時に決めておく、3つのこと
内閣府の臨時情報ガイドラインでは、事業者が平時から地震への備えを進め、臨時情報が発表された際の対応をあらかじめ検討しておくことが重要とされています。
誰が判断するか
臨時情報は、夜間や休日に発表される可能性があります。そのとき誰が最初に判断するのか、担当者が不在の場合は誰が代わるのかを決めておきましょう。
あわせて、判断に必要な情報をどこから取得するのかも整理しておきます。気象庁の発表をどこで確認するのか、自治体の情報をどこで確認するのかなど、情報源を明確にしておくことが重要です。
何を確認するか
国が事業者に示している「日頃からの地震への備えの再確認」には、安否確認手段、什器の固定、食料や燃料等の備蓄、発災時の役割分担などが含まれています。
会社に置き換えると、備蓄の数と期限、什器の固定、非常用電源の燃料、連絡網、避難経路などをチェックリスト化しておくと、臨時情報発表時に短時間で確認できます。
備蓄の数え方は職場の備蓄は何をどれだけ?携帯トイレと毛布の必要数で整理しています。
どう伝えるか
判断した内容を、誰が、どの手段で、いつまでに伝えるのかも決めておきます。
従業員だけでなく、取引先、委託先、来訪予定者など、業務に関係する相手への連絡が必要になる場合もあります。
特に納期や訪問予定などに影響する場合は、どのような条件で連絡するのかを事前に整理しておくと、発表後の調整を進めやすくなります。
臨時情報は、BCPを確認する機会でもある
内閣府の「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査結果」(令和8年3月公表)では、企業が挙げるBCPの課題として「自社従業員への取組の浸透」が86.2%となっています。
臨時情報が発表された場合、実際に大きな被害が発生していなくても、判断、連絡、確認などが一斉に必要になる可能性があります。
そのため、臨時情報への対応を考えることは、自社のBCPが実際に機能するかを確認する機会にもなります。
連絡網は機能するか。備蓄の数はすぐに確認できるか。判断する人は決まっているか。決めた内容が現場まで伝わるか。
こうした点を平時に確認しておけば、実際に臨時情報が発表された際の対応をスムーズに進めやすくなります。
対応を行った後は、何に迷ったか、どこで情報が止まったか、どの判断に時間がかかったかを記録しておくと、次回のBCP見直しにも活用できます。
よくある質問
Q. 南海トラフ地震臨時情報が出たら会社は休むべきですか
A. 一律に休業するという考え方ではありません。内閣府の「南海トラフ地震臨時情報 防災対応ガイドライン」(令和7年8月改訂)では、安全確保のための措置を講じたうえで社会経済活動を継続することが基本とされています。ただし、生命に危険が及ぶ活動については、危険を回避する措置を検討する必要があります。
Q. 臨時情報の対応期間はどれくらいですか
A. 臨時情報(巨大地震警戒)の場合、先発地震の発生から1週間が巨大地震警戒対応、その後の1週間が巨大地震注意対応となります。臨時情報(巨大地震注意)の場合は、先発地震の発生から1週間が巨大地震注意対応です。
Q. 対応期間が終われば安全になったということですか
A. いいえ。対応期間の終了は、南海トラフ地震が発生する可能性がなくなったことを意味しません。臨時情報に伴う特別な対応期間が終了した後も、通常時の地震への備えは続ける必要があります。
出典
- 内閣府(防災担当)『南海トラフ地震臨時情報 防災対応ガイドライン』(令和7年8月改訂)
- 内閣府(防災担当)『南海トラフ地震臨時情報防災対応ガイドライン よくある質問集』(令和7年8月更新)
- 内閣府(防災担当)『「南海トラフ地震防災対策推進地域」及び「南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域」の指定基準について』
- 内閣府(防災担当)『令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査結果(概要)』(令和8年3月)
