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「目標復旧時間は3日」。BCP(事業継続計画)にそう書いて止まっている会社があります。その3日は、どこから出た数字でしょうか。
内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)を読むと、手順に沿って出した数字も、その時点ではまだ「案」だと書かれています。
決め方の順序そのものは、かなり細かく示されています。それでも順序どおりに数字を出しただけでは足りません。実現できるかどうかが、まだ確かめられていないからです。
そしてもう一つ。時間の目標は、どの水準まで戻すかという目標と切り離せません。ここから始めます。
目標復旧時間は、単独では決まりません
内閣府(防災担当)の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)は、重要業務ごとに、どれくらいの時間で復旧させるかを「目標復旧時間(RTO)」、どの水準まで復旧させるかを「目標復旧レベル(RLO)」として決め、そのうえで重要業務どうしに優先順位を付けるよう示しています。内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)
時間だけ決めても、計画は動きません
「3日で復旧する」と書いた計画があるとします。
では、3日後に何ができていれば「復旧した」ことになるのでしょうか。
全ラインが平常どおりなのか、主力の1品目だけ出荷できればよいのか。受注だけ再開できればよいのか。
同じ「3日」でも、必要な人員・設備・代替手段はまったく変わります。
ガイドラインが時間と水準を並べているのは、このためです。RTOだけでは、復旧の姿が決まりません。
「不可分」だと、わざわざ書き足された経緯があります
このガイドラインは版を重ねています。巻頭の改定経緯を見ると、平成21年11月の改定で行われた見直しの一つとして、「目標復旧時間と不可分な目標復旧レベルの存在の明示」が挙げられています。
つまり、時間の目標だけではなく、「その時間にどの水準まで戻すのか」もセットで考える必要があるということです。
よく似た3つの言葉を並べておきます
| 呼び方 | 何を決めるか | ガイドライン上の位置 |
|---|---|---|
| 目標復旧時間(RTO) | 重要業務を、どれくらいの時間で復旧させるか | 本文 3.1.2章 |
| 目標復旧レベル(RLO) | 重要業務を、どの水準まで復旧させるか | 本文 3.1.2章 |
| 目標復旧時点(RPO) | 失ったデータを、過去のどの時点まで復旧させるか | 脚注 |
3つ目のRPOだけ、扱いが少し違います。内閣府のガイドラインでは脚注で説明されており、「1週間前までのデータに戻す」「1日前までのデータに戻す」といった例が挙げられています。
RPOは主にデータ復旧の話で、RTOとは別の指標です。

決める順序は、7つの段に分けて考えると分かりやすい
内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)は、事業影響度分析(BIA)で影響の大きさを時系列で評価し、重要業務を絞り、停止が許される限界を推定したうえで、その内側にRTO・RLOを置くという順序を示しています。
そのうえで、最初に置いたRTO・RLOについて、重要な要素や現状で可能な復旧時間・レベルを確認し、必要な対策を検討してから、経営判断で正式決定します。
この記事では、この流れを7つの段に分けて整理します。
| 段 | やること | 出るもの |
|---|---|---|
| 1 | 事業が止まったときの影響を、時系列で評価する | どの製品・サービスが重要か |
| 2 | 先に立て直すべき事業・業務を絞る | 重要事業・重要業務 |
| 3 | 時間の許容限界とレベルの許容限界を推定する | 耐えられる限界 |
| 4 | 限界より内側に、RTOとRLOを置く | 目標の「案」 |
| 5 | 重要業務に欠かせない要素を洗い出し、現状で可能な復旧時間・レベルを見る | 現状の実力 |
| 6 | 案と現状のギャップを埋める戦略・対策を検討する | やるべき対策 |
| 7 | 経営者が、対策の決定と一体で正式に決める | 最終決定したRTO・RLO |
先に出すのは、目標ではなく限界です
ここが見落とされやすいところです。
多くの説明は「RTOを設定しましょう」から始まりますが、ガイドラインの順序では、目標を置く前に「どこまでなら耐えられるか」を先に出します。
時間の許容限界より早くRTOを置く。レベルの許容限界を上回るようにRLOを置く。限界が先にあって、目標はその内側に入る、という関係です。
この順序を飛ばすと、「3日」の根拠が説明できなくなります。
影響を測る観点は、7つ例示されています
事業影響度を評価するときの観点として、ガイドラインでは、利益・売上・マーケットシェア、資金繰り、顧客への影響、従業員の雇用・福祉、法令や契約への違反、自社の信用、社会や地域への影響などが例示されています。
売上だけを見ていると、取引が切れる、信用を失うといった、あとから効いてくる影響を数え落とします。
最初に出した数字は、「案」です
内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)は、この段階の目標復旧時間と目標復旧レベルについて、実現性がまだ検証されていないため「あくまで『案』にとどまる」としています。
その後、目標を実現するための戦略・対策の実施可能性を検討し、経営判断によって正式に決定する流れです。
「決めた」と「正式に決めた」は別のことです
| 分析の段階で出す数字 | 最後に決める数字 |
|---|---|
| 案 | 正式決定 |
| 許容限界から設定 | 講じる対策で実現できる範囲を確認 |
| 事業影響度分析の中で設定 | 事業継続戦略・対策の決定と一体で決定 |
| まだ実現可能性が未検証 | 実現可能で、対外的にも説明できる数字 |
なぜ経営者が決めるのか
ガイドラインでは、最終的なRTO・RLOは、講じた対策によって実現可能なものとして、経営者が事業継続戦略や対策の決定と一体で正式に決定するとされています。
つまり、「現場が頑張れば何とかなるだろう」という数字を、そのままBCPに書いて終わりにはできません。
現場で実現できるかを確認し、足りなければ対策を追加する。そのうえで、会社としてどこまでの復旧を目指すのかを経営が決める。この順番です。
実務では、ここで迷います
ここまでが資料に書いてあることです。
自社に当てはめようとすると、資料に答えの書いていない場所で手が止まります。よく詰まるのは、次の4か所です。
「24時間で復旧」と書いても、24時間後の姿が無いと動きません
いちばん分かりやすいのがこれです。
「目標復旧時間は24時間」と書いてある。では、その24時間後、何ができていれば「復旧した」ことになるのでしょうか。
受注は受けられるが出荷はできない状態は、復旧なのか。1ラインだけ動いていればよいのか。
つまり、24時間と決めることだけでは足りません。その時間までに「何を、どの水準まで戻すのか」まで決めておく必要があります。
拠点が複数あると、欄がひとつでは足りません
ガイドラインは、重要業務ごとにRTO・RLOを決める考え方を示しています。
ところが拠点が3つある会社では、同じ「受注処理」でも、本社が止まったときと支店が止まったときとで事情が変わります。
本社が代わりを引き受けられるなら支店の復旧条件は変わりますし、引き受けられないなら別の対策が必要です。
現実的な進め方としては、まず最も重要な拠点・業務から整理し、その数字を他の拠点にそのまま当てはめてよいかを確認する方法があります。
夜間・休日に起きると、人が着くまでに時間が要ります
RTOは、災害などによって重要業務が中断した時点から、どれくらいの時間で復旧させるかという目標です。
一方、災害が夜間や休日に発生した場合、必要な人員がすぐに集まれるとは限りません。
この「集まるまでの時間」を具体的に扱っている資料の一例が、国土交通省 関東地方整備局の建設会社向けガイドラインです。
同ガイドラインでは、指揮命令系統図に記載された人員について、居住地から参集先までの距離や時間を確認する考え方が示されています。令和7年6月版では、徒歩時速2km、自転車時速5kmという計算方法も示されています。
| 拠点までの距離 | 徒歩(時速2km) | 自転車(時速5km) |
|---|---|---|
| 5km | 2時間30分 | 1時間 |
| 10km | 5時間 | 2時間 |
| 20km | 10時間 | 4時間 |
| 30km | 15時間 | 6時間 |
ただし、この時速2km・5kmという数字は、建設会社の事業継続力認定制度における計算方法です。他の業種にも同じ数字が一律に定められているわけではありません。
それでも、「RTO」と「人が集まるまでの時間」を突き合わせるという考え方は、自社のBCPを検証するうえで使えます。
夜勤や交替勤務がある会社では、発災時に在館している人員と、参集してくる人員とで、最初にできる業務の範囲が変わります。RTOだけでなく、時間帯ごとのRLOまで考える必要が出てくる場合があります。
数字を決める人と、達成する人が離れています
正式に決めるのは経営者です。
一方で、現状で可能な復旧時間・レベルを確認できるのは、その仕事を実際にしている人たちです。
ここが飛ばされると、最初に作った「案」がそのまま正式な数字になってしまいます。
計画にRTOがすでに書いてあるなら、その数字を現場の担当者に見せて、「いまの人数と設備で届きますか」と一度聞いてみてください。
届かないという答えが返ってきたら、数字を変えるのか、対策を追加するのかを検討する段階です。
国は「厳密にやらなくてよい」とも書いています
内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)は、影響度の分析について、1日の売上高や事務の処理件数を使う程度の簡単な方法でも一定の目的を達成できるとしています。
数字にしにくいものは、経営への影響の大小などで定性的に評価してもよい。重要業務やRTOが直感的に分かるのであれば、簡易な方法ではそれを使ってもよい、とされています。
3つの進め方があります
- 簡易な定量評価でよい……1日の売上高や事務処理件数などを使う
- 定性的な評価でもよい……数字にしにくいものは、経営への影響の大小で判断する
- 直感的に分かるなら、それを使ってよい……重要業務やRTOが明確なら、簡易な方法で進める
そのうえで、事業影響度分析に時間をかけ過ぎると、その間に外部・内部の事業環境が変化し、分析自体が無意味になる可能性があるとも注意しています。
正確な数字を出そうとして、BCPづくりそのものが止まってしまっては意味がありません。
許容限界も、ある程度の推定で構いません
許容限界についても、幅を持った推測しかできない場合があることを認めたうえで、ある程度推定し、必要に応じて後から見直すことが推奨されています。
最初から完璧な数字を出すのではなく、いったん仮置きして、対策を検討し、必要に応じて見直す。この進め方も、ガイドラインの考え方に沿っています。
ただし「あとで直す」は、直す機会が決まっていなければ実際には放置されます。いつ、何をきっかけに見直すのかを決めておくことが重要です。
限界は、災害の種類で動きます
同じガイドラインでは、火災で自社だけが被災した場合と、広域災害によって顧客や取引先も同時に被災した場合では、停止時間の許容限界が変わり得ると説明しています。
取引先も止まっているなら、自社だけを急いで復旧させても受け取り手がいない場合があります。
一方で、広域災害でも被災していない地域の顧客や取引先からの要求は続く可能性があります。
そのため、災害の種類や被害範囲によって、想定する復旧時間や復旧レベルを分けて考えることも必要です。
どうしても決められないときの、2つの方法
内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)は、重要業務やRTOを決めるのが難しい企業に対して、いくつかの考え方を示しています。
1つ目:顧客で切る
事業全体では優先順位を付けにくい会社もあります。
その場合、同じ事業でも取引先ごとに切り分け、重要な取引先への供給だけを重要業務として設定できないかを考える方法があります。
対象を細かくすると、判断できることがあります。
2つ目:復旧時期を仮置きする
電気・水道・通信、仕入先、納入先などがいつ復旧するか読めないため、RTOを決められない場合もあります。
その場合は、それらの復旧時期をいくつか仮定し、それぞれの場合でRTOを検討する方法が示されています。
「正解が分からないから決めない」のではなく、複数のケースを仮置きしてBCPを動かしてみる。そのほうが、実際の対策につながります。
段階的に置くこともできます
内閣府のガイドラインでは、RTOを複数考え、それぞれの時点でRLOを段階的に設定する方法も可能とされています。
たとえば、「3日で主力1品目、2週間で全品目」という考え方です。
ひとつの数字だけでは表現しにくい場合は、復旧を段階に分けることで、現実に近いBCPにできます。
業種によっては、外部の制度で確認時間が示される場合があります
自社だけでRTOを決めるケースとは別に、業種によっては、特定の認定制度などで目標時間や確認項目が示されている場合があります。
一例が、国土交通省 関東地方整備局の「建設会社における災害時の事業継続力認定」です。
令和7年6月のガイドラインでは、就業時間外について、施工中現場の被害状況確認・二次災害防止は12時間以内、関係行政機関への連絡調整は6時間以内、災害協定業務の着手は1日以内という確認項目が示されています。
国土交通省 関東地方整備局「建設会社における災害時の事業継続力認定」
| 自社で設定する場合 | 認定制度などで確認項目が示される場合 |
|---|---|
| 自社の許容限界と対策で実現できる範囲をもとに決める | 制度上の確認項目・基準を確認する |
| 会社や業務によって数字が異なる | 制度に応じた確認時間が設定される |
| 自社で重要業務を設定する | 制度上、対象となる業務が指定される場合がある |
ただし、ここで示した12時間・6時間・1日という数字は、あくまで関東地方整備局の建設会社向け認定制度におけるものです。一般企業のBCPに、そのまま当てはめる数字ではありません。
また、同制度は2026年度にも制度・申請資料の更新が行われています。建設会社が実際に申請する場合は、最新の申請要領・評価要領を確認してください。
自社のBCPを開いて、確認する3つ
ここまでを、手元の計画で確かめる形にすると、次の3つになります。
1. 数字だけが書かれていないか
「目標復旧時間 3日」とだけ書いてあるなら、そこが出発点です。
その隣に、目標復旧レベルの欄がありますか。
なければ、「3日後に何をどこまで戻すのか」を追加するところから始めます。
2. その時間までに「何をどこまで戻すか」が書いてあるか
欄があっても、中身が「通常どおり」では、具体的な復旧目標になっていない場合があります。
3日後に、どの製品を、どのラインで、どれだけ出せていればよいのか。
当日、その計画を見る人が判断できる言葉になっているかを確認してください。
3. その時間を実現する対策が決まっているか
いちばん飛ばされやすいのがここです。
「3日」を達成するために、何を手当てすることにしたのか。
人員、設備、代替拠点、ライフライン、通信、データ、原料・部品、物流など、重要業務に必要な要素を確認します。
対策が書かれていなければ、その3日はまだ「案」と考えたほうが安全です。
ひとつでも空いていたら、そこが「なぜ3日なのか」に答えられない理由かもしれません。
ここまで決まると、次に困るのは中身のほうです
RTOとRLOが決まると、たいてい次の疑問が出てきます。
「その時間・水準で戻すために、何が要るのか」です。
その前に:何の時間なのかが決まっていますか
RTOは、重要業務ごとに決めるものです。
重要業務が決まっていない段階でRTOだけを書き込んでも、何の時間なのかが定まりません。
ここが空のまま先へ進んでいるようなら、いったん重要業務の整理に戻ったほうが早いでしょう。
限界を出すには、被害の側の数字が要ります
「何日までなら耐えられるか」を出すには、そもそもどの程度の被害・停止が想定されるのかを把握する必要があります。
自社の立地で電気や水道がどれくらい止まる可能性があるのか、道路や建物、取引先にどのような影響が出るのか。自治体や国の被害想定などを使って確認していきます。
RTOが決まると、必要な備えを検討しやすくなります
ここは注意が必要です。
「RTO=備蓄日数」ではありません。
RTOは重要業務を復旧させるまでの目標時間です。一方、飲料水・食料・トイレ・毛布などの備蓄は、従業員が安全に待機する時間や、ライフラインの復旧見込み、帰宅困難者対策など、別の条件から必要量を考えます。
ただし、RTOを決めることで「その時間まで重要業務を維持・復旧するには、どの経営資源が必要か」という検討につながります。備蓄も、その中の重要な要素の一つになる場合があります。
何をどれだけ持つかは、職場の備蓄は何をどれだけ?携帯トイレと毛布の必要数で、人数だけでは決めにくい品目は、帰宅困難で会社に泊まる備え|人数で出ない品目と寝る場所の面積で扱っています。
誰が決めて、誰が回すのか
正式なRTO・RLOは、経営者が事業継続戦略や対策の決定と一体で決めます。
一方、BCPを作ったあとに実際に運用するのは、現場を含めた組織全体です。
数字を決めることだけで終わらせず、「その数字を達成するために誰が何をするのか」までつなげておくことが重要です。
よくある質問
Q. すでに「3日」と書いてある計画は、決め直しになりますか
A. 必ずしも決め直しになるわけではありません。
内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)の考え方で確認するなら、その3日が許容限界より前に設定されているか、3日で復旧させるための対策が実現可能かを確認します。
さらに、3日後にどの水準まで復旧させるのか、つまりRLOも確認します。
問題がなければ、その数字を正式なRTOとして整理できます。問題があれば、数字を変えるか、対策を追加するかを検討します。
Q. 目標復旧時間は、重要業務ごとに別々に決めるのですか
A. 基本的には、重要業務ごとに検討します。
内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)は、重要業務についてRTOとRLOを決定し、重要業務間に優先順位を付けるよう示しています。
そのため、会社全体にひとつだけ「3日」と置くよりも、「受注処理は24時間」「主力製品の出荷は3日」など、重要業務ごとに考えるほうがガイドラインの考え方に沿っています。
Q. 目標復旧時間(RTO)と目標復旧時点(RPO)は何が違いますか
A. RTOは「重要業務をどれくらいの時間で復旧させるか」の目標です。
一方、RPOは「失われたデータを、どの時点まで戻すか」の目標です。
たとえば、RTOが「24時間以内」、RPOが「前日のバックアップ時点まで」であれば、業務を24時間以内に復旧させつつ、データについては前日の状態まで戻す、という考え方になります。
両者は似ていますが、対象が違います。
出典
- 内閣府(防災担当)『事業継続ガイドライン ―あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応―』(令和5年3月)
- 国土交通省 関東地方整備局「建設会社における災害時の事業継続力認定」
- 国土交通省 関東地方整備局「建設会社における災害時の事業継続力認定の申請に向けたガイドライン」
