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BCP(事業継続計画)づくりに取りかかった会社が、最初の段階で迷いやすいのが「重要業務をどう決めるか」です。
「どの業務も大切で、優先順位をつけられない」というケースは珍しくありません。
しかし、災害などで人員や設備、資金などの経営資源が限られた場合、すべての業務を平時と同じように続けることは難しくなります。そこでBCPでは、限られた経営資源をどの業務に優先して投入するのかをあらかじめ決めておきます。
この記事では、内閣府の「事業継続ガイドライン」をもとに、重要業務を決める際の考え方を整理し、実務で使いやすい5つのステップと業種別の例を紹介します。
なぜ「重要業務が決められない」のか
重要業務を決めるときに、「どの業務も必要だから順位をつけられない」と考えてしまうのは自然なことです。
「重要ではない業務」を探す必要はない
BCPで重要業務を決めるとき、考えるべきなのは「なくても困らない業務はどれか」ではありません。
災害などによって使える人員や設備などが限られたときに、どの業務を優先して継続・復旧させる必要があるかを考えます。
つまり、平時の重要度を順位づけするのではなく、非常時の限られた経営資源をどこに投入するかを決める作業です。
すべてを同時に復旧させるのは難しい
大きな災害が発生すると、出社できる従業員が減ったり、建物や設備が使えなくなったり、電気・通信などのライフラインが停止したりする可能性があります。
そのような状況で、すべての業務を同時に復旧させようとすると、限られた人員や設備が分散してしまいます。
だからこそ、「まず何を復旧させるか」をあらかじめ決めておくことがBCPでは重要になります。
「中核事業」と「重要業務」は同じではない
BCPの資料では、「中核事業」や「重要業務」という言葉が使われます。似た言葉ですが、厳密には同じものではありません。
内閣府の「事業継続ガイドライン」では、重要な事業を特定したうえで、その事業に必要となる「重要業務」を整理し、それぞれの重要業務について目標復旧時間や目標復旧レベルを検討する流れが示されています。
事業が一つしかない会社でも、重要業務は決められる
たとえば、運送業だけを営んでいる会社であっても、「運送業」とだけ書いて終わりにする必要はありません。
運送業の中にも、受注、配車、ドライバーの手配、車両管理、荷物の積み込み、配送、顧客への連絡、請求など、さまざまな業務があります。
こうした単位まで分解すると、「どの業務を先に復旧させる必要があるか」を考えやすくなります。
会社の規模や業種に合わせて、事業→業務と少しずつ細かくしていくのがポイントです。
重要業務を決めるときは「誰が困るか」から考える
重要業務を決めるとき、自社だけを見ていると判断しにくくなることがあります。
そんなときは、業務が止まった場合に「誰に、どのような影響が出るのか」という視点を加えてみましょう。
取引先への影響を考える
たとえば製造業であれば、自社の製品が止まることで取引先の生産ラインまで止まる可能性があります。
一方で、同じ製品を別の会社から調達できるのであれば、自社の業務が止まった場合の影響は相対的に小さくなる可能性があります。
そのため、重要業務を考えるときには、次のような問いが役立ちます。
- この業務が止まると、取引先にはどのような影響が出るか
- 別の会社や方法で代替できるか
- 利用者や顧客への影響はどの程度か
- 法令や契約などによって、継続や期限が求められている業務ではないか
- 社会的に重要な役割を担っている業務ではないか
「他社で代替できないか」は重要な視点の一つですが、それだけで優先順位を決めるのではなく、顧客・取引先・従業員・社会などへの影響を含めて考えることが大切です。
「自社が止まると、誰が一番困るのか」を考える
判断に迷ったときは、「自社が止まったら、誰が一番困るのか」と考えてみると整理しやすくなります。
その影響を生み出している業務が、重要業務の候補になります。
これは製造業に限りません。サービス業であれば、専門的なサービスや地域に必要なサービス、運送業であれば特定の荷物を運ぶ機能など、自社が担っている役割によって重要な業務は変わります。
中小企業白書にも事例がある
2025年版小規模企業白書では、山形県の製造業の事例が紹介されています。
この企業では、災害時の事業継続を考える中で「自社にしかできない事業か」という観点から事業や製造工程を見直し、他社で代替可能なものについて判断を明確にしました。
また、代替となる仕入先・外注先の検討や、少人数で運営できるよう製造工程を見直したことが、平時のコスト削減や生産効率の向上にもつながったとされています。
このように、重要業務を考えることは、災害時だけでなく、平時の事業のあり方を見直すきっかけにもなります。

BCPの重要業務を決める5つのステップ
ここまでの考え方を踏まえて、実際に重要業務を決める手順を5つに整理します。
ステップ1 業務を洗い出す
まず、社内で行っている業務を部署ごとに書き出します。
この段階では優先順位を考えず、できるだけ漏れなく洗い出すことを重視します。
「受注処理」「出荷手配」「請求書発行」など、担当者が実際に行っている業務の単位まで分解すると、その後の比較がしやすくなります。
ステップ2 業務が止まったときの影響を考える
洗い出した業務について、「この業務が止まったら何が起こるか」を考えます。
- 顧客への影響
- 取引先への影響
- 売上・利益への影響
- 従業員への影響
- 社会への影響
- 法令・契約上の影響
内閣府の事業継続ガイドラインでも、重要業務を決める際には、停止期間に伴う影響を評価し、供給先や従業員、社会などへの影響を考慮することが示されています。
ステップ3 代替手段があるか確認する
次に、その業務が止まった場合に、別の方法で代替できるかを確認します。
たとえば、次のような方法があります。
- 別の仕入先に切り替える
- 別の工場で生産する
- 外部業者に委託する
- 別の拠点で業務を行う
- テレワークなど別の方法で業務を続ける
代替手段がある業務と、代替手段がない業務では、災害時の復旧方法も変わります。
「重要業務を決める」だけでなく、その業務をどうすれば継続・復旧できるかまで考えることがBCPでは重要です。
ステップ4 目標復旧時間を考える
重要業務を決めたら、「いつまでに復旧させる必要があるか」を考えます。
これがBCPでいう目標復旧時間(RTO)です。
重要なのは、「何日で復旧できそうか」ではなく、「何日までに復旧させなければならないか」という視点です。
内閣府のガイドラインでは、事業への影響を時間の経過に沿って分析したうえで、停止が許容される限界より早く目標復旧時間を設定する考え方が示されています。なお、最初に設定する目標は、対策の実現可能性を確認したうえで最終決定することになります。
ステップ5 復旧の優先順位を整理する
最後に、重要業務を復旧の優先順位に整理します。
ここでは、たとえば次のような3区分にすると社内で共有しやすくなります。
| 区分 | 再開の目安 | 考え方 |
|---|---|---|
| 最優先 | できるだけ早く | 停止による影響が大きく、早期の継続・復旧が必要な業務 |
| 高優先 | 次の段階 | 主要な取引先や顧客への影響を考え、優先的に復旧する業務 |
| 通常 | その後 | 一定期間停止しても、他の重要業務への影響が比較的小さい業務 |
この3区分は、記事内での整理例です。内閣府が「24時間以内・1週間以内・1か月以内」という全国共通の基準を定めているわけではありません。
実際の目標復旧時間は、業種、顧客との契約、社会的な役割、災害の種類、自社の復旧能力などを踏まえて設定します。
非常時にしか発生しない業務もある
重要業務を考えるとき、平時の業務だけを並べていると、災害発生後に突然必要になる業務を見落とすことがあります。
災害が起きて初めて必要になる仕事
たとえば、次のような業務です。
| 業種 | 災害時に発生する可能性がある業務 |
|---|---|
| 建設業 | 自治体などからの要請に基づく応急対応、道路啓開など |
| 食品製造業 | 通常とは異なる製品の製造への切り替え |
| 運輸業 | 支援物資の輸送など |
| ビル管理業 | 建物の安全確認、設備の復旧対応など |
| 宿泊業 | 避難者や応援要員への対応など |
ただし、これらがすべての企業に必要になるわけではありません。自治体との協定や業界としての役割、自社の事業内容などを確認し、災害時に実際に求められる役割がある場合には、平時から対応方法を決めておきます。
需要が変わる場合は「別の業務」も考える
災害が起きると、平時の商品やサービスの需要が一時的に減ることがあります。
その場合は、単純に「平時の業務をどれだけ早く復旧するか」だけでなく、災害時に必要とされる別の商品やサービスを提供できないか検討する方法もあります。
たとえば、製造設備や人員を別の用途に振り向けられる場合があります。
もちろん、これはすべての業種で可能なわけではありません。自社の設備・人員・取引先との関係などを踏まえて、現実的に可能かを検討しましょう。
重要業務を決めるときによくある3つの失敗
失敗1 現場だけで決めてしまう
重要業務の優先順位は、複数の部署に関係することがあります。
そのため、担当部署だけで決めるのではなく、経営層も含めて検討することが重要です。
特に、業務間で優先順位が分かれる場合には、会社としてどこに経営資源を投入するのかを判断できる体制にしておきましょう。
失敗2 重要業務を増やしすぎる
「念のため」と考えて、すべての業務を最優先にすると、結局どの業務から手をつけるのか分からなくなります。
重要業務を決める目的は、限られた人員や設備などを、必要な業務に優先して投入することです。
「重要かどうか」だけでなく、「どの程度早く復旧する必要があるか」まで考えて整理しましょう。
失敗3 一度決めたまま更新しない
重要業務は、会社の状況が変われば変わる可能性があります。
主力商品が変わった、主要な取引先が変わった、新しい拠点ができた、業務を外部委託するようになったなど、事業環境が変化したときは、重要業務や目標復旧時間も見直しましょう。
BCPを策定した後も、訓練や実際の対応を通じて課題を確認し、必要に応じて内容を更新することが大切です。
BCPの重要業務に関するよくある質問
Q. 事業が一つしかない会社は、重要業務をどう決めればよいですか?
A. 事業をさらに細かい業務に分解して考えます。たとえば製造業なら、受注、原材料の調達、製造、検査、出荷、請求などに分け、その中から災害時に優先して継続・復旧する業務を検討します。
Q. 「重要業務」は国が決めているのですか?
A. すべての企業に共通する具体的な業務名が国から指定されているわけではありません。内閣府の事業継続ガイドラインでは、企業が自社の事業への影響などを分析し、優先して継続すべき重要業務を選定する考え方が示されています。
Q. 「目標復旧時間」はどう決めればよいですか?
A. 「復旧できそうな時間」ではなく、「いつまでに復旧させる必要があるか」という観点から考えます。顧客や取引先への影響、社会的な役割、契約・法令上の期限などを確認し、その後、自社の復旧能力や必要な対策を踏まえて実現可能性を検討します。
Q. 重要業務は一度決めたら変更してはいけませんか?
A. 変更して構いません。取引先、商品、設備、人員、拠点などが変われば、重要業務も変わる可能性があります。訓練などを通じて課題が見つかった場合も、BCPの内容を見直しましょう。
重要業務を決めたあとに使える公的な支援制度
重要業務を特定したら、次は「その業務をどう守るか」を考えます。
中小企業の場合、代表的な制度の一つが、中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」です。
これは、中小企業者等が策定した防災・減災の事前対策に関する計画を、経済産業大臣が認定する制度です。中小企業庁では、中小企業の取り組みやすいBCPとして位置づけています。認定を受けた事業者には、税制措置、金融支援、補助金の加点などの措置があります。
制度の内容や適用条件は変更される場合があるため、申請を検討する場合は、中小企業庁の最新情報を確認してください。
まとめ:まず「自社が止まると誰が困るか」を考える
BCPの重要業務を決めるとき、「どの業務が一番大切か」と社内だけで考えると、なかなか答えが出ないことがあります。
そんなときは、まず「自社の業務が止まると、誰にどのような影響が出るのか」を考えてみてください。
そのうえで、
- 社内の業務を洗い出す
- 業務停止による影響を考える
- 代替手段があるか確認する
- 目標復旧時間を考える
- 復旧の優先順位を整理する
という順番で整理していくと、自社で優先すべき業務が見えやすくなります。
重要業務を決めることは、単にBCPの書類を完成させるための作業ではありません。災害時に限られた人員や設備をどこに投入するのかを、平時のうちに会社として決めておくための作業です。
まずは、社内の業務を紙や付箋に書き出すところから始めてみましょう。
出典
- 内閣府(防災担当)「事業継続 初めての方へ」
- 内閣府(防災担当)「事業継続ガイドライン(令和5年3月)」
- 中小企業庁「2025年版 小規模企業白書 第4節 BCP」
- 中小企業庁「事業継続力強化計画」
