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BCP(事業継続計画)を作るとき、決めにくいのが「何日分を備えるか」です。備蓄を3日分にするのか、1週間分にするのか。事業をいつまでに戻すと書くのか。根拠がないまま数字を置くと、社内で問われたときに答えにくくなります。
ただし、首都直下地震について、国や東京都が「会社は何日間止まる」と一律に示しているわけではありません。
東京都は「首都直下地震等による東京の被害想定」で、地震発生直後、1日後、3日後、1週間後、1か月後などの時間軸に沿って、ライフラインや建物、生活への影響を整理しています。この記事では、この東京都の被害想定をもとに、会社の事業継続に関係する部分を整理します。
なお、東京都の被害想定は令和4年5月25日に公表されたものが現在の最新です。一方、国では令和7年12月に首都直下地震の新たな被害想定が公表されています。この記事で扱う水道・ガスなどの具体的なライフライン被害は、東京都の令和4年の被害想定に基づいています。
この記事でわかることは、次の4点です。
- ライフラインは、同じタイミングで止まり、同じタイミングで復旧するわけではない
- 水道が復旧しても、建物側の排水設備の被害によってトイレが使えない場合がある
- ガスは安全装置によって供給が止まる場合があり、被害が確認されない地域では早期復旧が見込まれる
- 「3日分」の備蓄だけでなく、自社の建物や事業内容に合わせて必要な期間を考えることが重要
止まる順と戻る順は、同じではない
東京都防災会議の「首都直下地震等による東京の被害想定 報告書」(令和4年5月)は、被害の様相を時間軸に沿って整理しています。主な時点は、直後、1日後、3日後、1週間後、1か月後です。
ライフラインごとに、時間の進み方が違う
同じ地震でも、電気、ガス、水道、通信などでは、被害の出方も復旧の進み方も異なります。
そのため、BCPで「3日でここまで戻す」「1週間以内に事業を再開する」といった目標を設定する場合は、その期間に何が使えて、何が使えない可能性があるのかを先に把握しておく必要があります。
東京都の被害想定が時間軸で整理されているのは、被害の大きさだけでなく、「時間が経つと何がどう変わるのか」を確認するためにも使えるからです。
会社が困る順に読み替える
報告書はライフラインや被害項目ごとに整理されていますが、企業がBCPを考える場合は、自社の業務にどのような影響が出るかに置き換えて読む必要があります。
この記事では、トイレ、水、ガス、電気、電話、建物の順に見ていきます。
たとえば、電気が止まれば建物の給水設備が動かなくなり、水が使えなくなることがあります。水が使えなければ、トイレや衛生管理にも影響します。
ライフラインを個別に見るだけでなく、「一つの停止が別の機能にどう影響するか」まで考えることが、BCPでは重要です。
トイレは、水道が戻っても使えない場合がある
東京都の被害想定では、下水道管路の被害に加えて、ビルや集合住宅などでは建物内の排水設備の被害が、トイレの利用に影響することが示されています。
建物の中の配管も確認する
見落とされやすいのが、建物の中の排水設備です。
水道そのものが復旧しても、建物側の排水管に損傷がある場合は、トイレの使用を再開できないことがあります。
つまり、行政の水道復旧状況だけを確認しても、自社が入っている建物のトイレがいつ使えるようになるかまでは分かりません。
賃貸オフィスの場合は、建物の所有者や管理会社が設備の点検・修繕を行うことになるため、平時から「災害時の排水設備の確認は誰が行うのか」を確認しておくと安心です。
周囲が直っても、自分の建物だけ遅れることがある
同じ地域の水道が復旧しても、自社が入っている建物の設備が復旧していなければ、トイレを使えない可能性があります。
そのため、携帯トイレの備蓄を考えるときは、「水道が復旧するまで」だけでなく、「建物内の排水設備が安全に使用できるようになるまで」という視点も必要です。
必要な数の計算は職場の備蓄は何をどれだけ?携帯トイレと毛布の必要数にまとめています。

水道は、区部で約3割が断水する
東京都の被害想定では、水道管の被害などによって、区部では利用者のおよそ3割、多摩地域ではおよそ1割で断水が発生すると想定されています。
1週間後も、断水が残る想定
時間軸を追って見ると、1週間後にも区部で約3割、多摩地域で約1割の断水が残る想定となっています。
つまり、「地震から3日たてば水道は戻る」と一律に考えることはできません。
もちろん、この数字は東京都全体の想定です。自社が必ず断水側に入るという意味ではありません。一方で、被害の大きい地域に入った場合に備えておくための材料として使うことができます。
建物側の設備でも止まる
水道管が無事でも、建物の設備によって水が使えなくなる場合があります。
東京都の被害想定では、建物内の受水槽や給水管の被害、また高架水槽などに水を送るポンプが停電によって停止することなどが、水の利用に影響する可能性として示されています。
自社が入っている建物の給水方式を把握していない場合は、建物の管理会社やオーナーに確認しておきましょう。
給水拠点には人が集中する可能性がある
断水した場合には応急給水が行われますが、東京都の被害想定では、給水拠点に人が集中し、長い待ち時間が発生する可能性も示されています。
企業のBCPでは、「断水したら社員が給水拠点へ水を取りに行けばよい」と単純に考えるのではなく、社内に必要な飲料水をどれだけ備えるか、給水に行く場合の担当者や方法をどうするかまで考えておく必要があります。
ガスは自動で止まり、被害がなければ早期復旧が見込まれる
東京都の被害想定では、安全確保のための仕組みが働くことなどにより、都内のおよそ24%の利用者でガスの供給が停止すると想定されています。
一方、被害がないことが確認されたブロックでは、供給が早期に再開される想定となっています。
止まるのは壊れたからとは限らない
低圧ガスの供給はブロック単位で管理されており、大きな揺れがあった地域では、安全確保のために供給が停止される場合があります。
また、各家庭などに設置されているマイコンメーターにも、強い揺れを感知してガスを遮断する機能があります。
そのため、ガスが止まったからといって、必ずしもガス設備そのものが破損したという意味ではありません。
復帰の操作を、知っている人がいるか
供給が再開された後に、建物や設備側で復帰操作が必要になる場合があります。
給湯室や厨房などでガスを使用する事業所では、ガスメーターの場所や復帰方法を確認し、担当者が不在でも対応できるよう情報を共有しておくとよいでしょう。
飲食店や食品を扱う事業所では、ガスの復旧が営業再開に関係する場合があります。自社の事業でガスがどの程度重要なのかを、BCPの中で確認しておきましょう。
電気は、数%の停電でも事業所は止まり得る
東京都の被害想定では、配電設備の被害による停電だけでなく、発電所や送電設備などの被害によって、広い範囲で電力供給に影響が出る可能性が示されています。
「停電率は数%」だけを見ない
配電線の被害だけを見ると、停電する割合は大きくないように見える場合があります。
しかし、企業にとって重要なのは東京都全体の停電率だけではありません。自社の所在地が停電地域に入った場合、電気が使えなくなることで、照明、空調、通信、サーバー、給水設備など、さまざまな機能に影響する可能性があります。
そのため、「東京都全体では停電率が数%だから、自社も大丈夫」と考えるのではなく、自社が停電した場合に何が止まるのかを確認しておく必要があります。
非常用電源は、燃料が続く時間まで
非常用発電機があれば安心、というわけでもありません。
発電機が何時間・何日間稼働できるのか、燃料をどこから確保するのか、燃料補給ができない場合に何を優先して動かすのかを確認しておきましょう。
非常用電源の容量だけでなく、「何時間使えるのか」まで把握して初めて、BCP上の電源確保として考えることができます。
復旧工事は、他のライフラインとも関係する
電気、水道、ガスなど複数のライフラインに被害が出た地域では、それぞれの復旧作業を同時に進められるとは限りません。
自社の地域の被害が大きければ、復旧作業に時間がかかる可能性があることも想定しておきましょう。
電話は「つながりにくい」前提で組む
東京都の被害想定では、固定電話の回線そのものが被害を受けるだけでなく、安否確認などによる通信の集中によって、一般の通話がつながりにくくなる可能性が示されています。
回線が無事でも、かからない
物理的に電話回線が切れていなくても、通信が集中すれば、電話がつながりにくくなることがあります。
そのため、「連絡網に電話番号が書いてある」ことと、「災害時に連絡が取れる」ことは同じではありません。
安否確認や社内連絡を電話だけに頼らず、複数の連絡手段をあらかじめ用意しておくことが重要です。
停電すると、電話機そのものが使えない場合もある
電話設備によっては、停電によって電話機や周辺機器が使用できなくなる場合があります。
代表番号がどのような設備につながっているのか、停電時にも使用できるのかを、通信会社や設備管理者に確認しておきましょう。
伝言サービスも、複数の手段の一つとして考える
災害用伝言ダイヤル(171)や災害用伝言板(web171)など、災害時に利用できる通信手段があります。
ただし、災害時には利用が集中することも考えられます。安否確認や従業員への連絡については、複数の通信手段を組み合わせておくことが重要です。
建物が使えるかどうかは、安全確認が終わってから
地震後に建物の外観に大きな損傷が見えなくても、「そのまま使ってよい」とは限りません。
東京都の被害想定では、建物の安全確認に必要な人員が不足することなどによって、確認に時間を要する可能性が示されています。
「壊れていない」と「使ってよい」は別
地震後は、建物の構造や設備などについて安全確認を行い、必要に応じて専門家による点検を受けることが重要です。
特に、入居しているビルについては、自社だけで建物全体の安全性を判断することはできません。
自社が入居するビルの安全確認を誰が行うのか。オーナーや管理会社がどのように対応するのか。平時に確認しておくことで、地震後の判断を早めることができます。
止まるのは、自社の建物とは限らない
自社の建物が無事でも、事業が続くとは限りません。
取引先と物流も、同じ地震に遭う
仕入先が断水地域に入っている、配送会社の拠点が停電している、従業員が住んでいる地域の交通が止まっているなど、自社の建物以外の被害によって事業が止まることがあります。
BCPでは、自社拠点の被害だけでなく、主要な仕入先、委託先、物流会社、顧客などへの影響も考えておく必要があります。
「うちは無事だった」だけでは事業は続かない
自社が営業できる状態でも、材料が届かない、商品を出荷できない、顧客が来られないといった状況は起こり得ます。
そのため、被害想定を読むときは、自社が被災した場合だけでなく、「取引先が被災した場合に何が止まるか」まで考えておきましょう。
優先する業務を決めておく意味
すべての業務を一度に復旧させることが難しい場合、優先する業務をあらかじめ決めておくと、限られた人員や電力、設備などをどこに使うか判断しやすくなります。
BCPとBCMの考え方についてはBCPとBCMの違い|作っても回らない理由で扱っています。
「3日分」で足りるのか
東京都の被害想定を見ると、水道などは1週間後にも被害が残る想定となっています。
だからといって、「東京都の企業はすべて1週間分を備蓄しなければならない」という意味ではありません。
重要なのは、自社の事業と建物の条件を踏まえて、どの程度の期間を想定するかを決めることです。
項目ごとに答えが違う
ガスのように比較的早い復旧が見込まれるものもあれば、水道のように1週間後にも被害が残る想定のものもあります。
「ライフラインはすべて3日で戻る」と考えるのではなく、項目ごとに復旧の時間軸を確認することが重要です。
国の防災資料などで示されている3日分という備蓄の目安も、すべてのライフラインが3日で復旧するという意味ではありません。
足りない分を、どこで埋めるか
すべてのリスクを備蓄だけで解決する必要はありません。
取引先の別拠点を使う、在宅勤務に切り替える、営業を縮小する、優先業務以外を一時停止するなど、事業の継続方法を組み合わせることもできます。
たとえば、トイレが使えない状態が長引くことを想定する場合、携帯トイレを多めに備蓄する方法もあれば、一定期間以降は出社人数を減らす方法もあります。
どの方法を選ぶかは、自社の事業内容や建物、従業員数などを踏まえて決める必要があります。
自社の想定を、時間軸で書き出す
横に時間、縦にライフラインを並べる
東京都の被害想定と同じように、自社の状況を時間軸で整理すると分かりやすくなります。
横に「直後」「1日後」「3日後」「1週間後」「1か月後」を置き、縦に「トイレ」「水」「ガス」「電気」「電話」「建物」を並べます。
そして、それぞれの欄に「使える」「一部使える」「使えない可能性がある」「確認が必要」などを書き込んでいきます。
埋まらない欄があれば、それが平時に確認しておくべき事項です。
建物側の条件を調べる
受水槽や高架水槽などの給水方式、非常用発電機の稼働時間、代表電話の停電時の状態、排水設備の点検・修理体制などを、建物の管理者に確認しておきましょう。
自社だけでは分からないことを、建物管理者や設備担当者に確認することもBCP策定の一部です。
決めた日数を、備蓄の数に戻す
必要な期間が決まれば、その期間に必要な備蓄量を計算できます。
携帯トイレなどの必要数については職場の備蓄は何をどれだけ?携帯トイレと毛布の必要数で整理しています。
数字を出したら、置き場所、担当者、点検日、期限管理まで決めておきましょう。
被害想定は、読んで不安になるための資料ではありません。自社のBCPで「まだ分かっていないこと」を見つけるための資料として使うことができます。
また、被害想定の数字は、一定の条件を設定して行ったシミュレーションの結果です。実際の被害が想定と同じになることを保証するものではありません。数字を絶対視するのではなく、自社の条件に当てはめて考える材料として利用することが重要です。
よくある質問
Q. 首都直下地震で会社は何日止まりますか?
A. 一律に「○日間」と決まっているわけではありません。東京都の被害想定では、直後、1日後、3日後、1週間後、1か月後などの時間軸でライフラインや建物などの被害が整理されています。自社の建物、業種、ライフラインへの依存度などを踏まえて、事業をどこまで継続できるかを判断する必要があります。
Q. 首都直下地震では断水がどれくらい続きますか?
A. 東京都防災会議の令和4年の被害想定では、区部でおよそ3割、多摩地域でおよそ1割の利用者で断水が発生し、1週間後にも同程度の断水が残る想定となっています。
Q. 水道が復旧すればトイレは使えますか?
A. 必ずしもそうとは限りません。ビルや集合住宅では、建物側の排水設備に被害がある場合、水道が復旧してもトイレを使用できない可能性があります。建物の管理者やオーナーに、災害時の点検・修繕体制を確認しておくことが重要です。
Q. 首都直下地震ではガスはどれくらい止まりますか?
A. 東京都の令和4年の被害想定では、安全確保のための仕組みが働くことなどにより、都内のおよそ24%の利用者でガスの供給停止が想定されています。一方、被害がないことが確認されたブロックでは、早期の供給再開が見込まれています。
出典
- 東京都防災会議『首都直下地震等による東京の被害想定 報告書』(令和4年5月25日公表)
- 内閣府(防災担当)『首都直下地震モデル・被害想定手法検討会』
- 内閣府(防災担当)『首都直下地震対策』
- 内閣府(防災担当)『避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン』
