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BCP(事業継続計画)を作った会社に聞くと、返ってくる言葉があります。「作ったのは3年前です」。
見直したほうがいいのは分かっている。ただ、どのくらいの間隔で、何をきっかけに、どこを直せばいいのかが決まっていない。だから手が付かない、という状態です。
この記事では、分野の違う4つの公的資料を並べて、見直しについて何が書かれているかを整理します。共通しているのは、単純に「何年ごと」と決めるのではなく、組織や業務の変化、訓練で見つかった課題、法令や制度の改正など、見直しのきっかけを具体的に置いていることです。
この記事でわかることは、次の5点です。
- 「何か月ごと」という共通の回数は、4つの資料のどれにも示されていない
- 代わりに、見直しのきっかけが具体的に挙げられている(人事異動、取引先の変更、法令改正など)
- 国土交通省の港湾向け資料にも、内閣府の資料と共通する見直し・改善の考え方がある
- 見直しには「古いところを直す」だけでなく、「対象範囲を広げる」という方向もある
- 公的資料そのものも改訂されるため、BCPの根拠にしている資料の版を確認する必要がある
「何か月ごと」の答えは、どの資料にも書かれていない
内閣府、厚生労働省、経済産業省・IPA、国土交通省港湾局の4つの公的資料には、全業種に共通するBCPの見直し回数は示されていません。代わりに、見直しのきっかけとなる出来事や、定期的に点検する考え方が示されています。
回数を探しても見つからない
「BCPは半年に一度」「年に一度」といった数字を探して資料を開くと、肩透かしに遭うかもしれません。公的資料で具体的に示されているのは、どういうときに見直すか、誰が見直すか、見直した結果をどう改善につなげるかのほうです。
これは、業種や規模、組織の変化の大きさによって、必要な見直しのタイミングが変わるためと考えられます。拠点や取引先が大きく動く会社と、比較的変化の少ない会社では、同じ間隔で見直す必要があるとは限りません。
防災の計画とは、見直し方が違う
国土交通省港湾局のガイドラインには、自治体が作る地域防災計画と港湾BCPを比べた表があります。見直しの考え方も対照的に整理されています。
| 項目 | 地域防災計画 | 港湾BCP |
|---|---|---|
| 見直しの仕方 | 年に1度、計画を見直す | 過去の災害だけでなく、平時の訓練なども含め、適宜見直す |
| 対策の付け方 | 対策どうしに優劣を付けずに並べる | 守る機能と施設を先に絞ってから対策を組む |
| 施設の整備計画 | 含む | 含まない |
ここから分かるのは、BCPの見直しを単純にカレンダーだけで回すのではなく、訓練や組織・業務の変化など、実際に起きたことをきっかけに行う考え方があるということです。
ただし、会社として定期的な点検日を設定することはできます。年1回など、自社で無理なく続けられるタイミングを決めておき、その間にも大きな変化があれば随時見直す、という運用が考えられます。
4つの資料は、見直しをどこに置いているか
内閣府は見直し・改善の実施計画を計画の構成要素に含め、厚生労働省は研修や訓練で見つけた課題を改善につなげる考え方を示しています。経済産業省・IPAは継続的な改善を経営者への10の重要事項の6番目に置き、国土交通省港湾局はマネジメント計画の中に見直し・改善を位置付けています。
並べるとこうなる
| 資料 | 分野 | 見直しの位置付け | 挙げているきっかけ・考え方 |
|---|---|---|---|
| 内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月) | 全業種 | 計画の構成要素の1つ(見直し・改善の実施計画) | 担当者の異動、取引先の変更、拠点や生産ラインの変更、新しい商品・サービス、新たな契約、外部からの要請、法律や制度の改正など |
| 厚生労働省「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」 | 介護 | 研修・訓練と改善をつなげる考え方 | 研修や訓練で見つかった課題、最新の知見など |
| 経済産業省・IPA「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0」 | サイバー | 経営者への10の重要事項の6番目 | PDCAサイクルによるサイバーセキュリティ対策の継続的改善 |
| 国土交通省港湾局「港湾の事業継続計画策定ガイドライン(改訂版)」 | 港湾・複数組織 | マネジメント計画の中 | 担当者の異動、関係組織の変更、自治体の防災計画の変更、事務所の移転、仕事の進め方の変更、新規航路、外部からの要請、法律や制度の改正、技術の進展など |
共通しているのは、見直しを仕組みに入れていること
4つの資料は分野こそ異なりますが、見直しや改善を「やったほうがよいこと」として本文の隅に置くのではなく、それぞれの仕組みの中に位置付けています。
内閣府のガイドラインでは、BCP本体だけでなく、事前対策、教育・訓練、見直し・改善についても計画を作る構成になっています。
つまり、BCPは作ったら終わりの文書ではなく、平常時から点検し、必要に応じて修正し続けるものとして考えられています。
計画そのものの成り立ちについては「BCPとBCMの違い|作っても回らない理由」に整理しました。この記事は、そのうち見直しの部分だけを実務に落とします。サイバーを想定に入れる話は「サイバー攻撃とBCP|ランサムウェアで止まった会社に国が求める10の指示」で扱っています。
港湾の資料にも、内閣府と共通する考え方がある
国土交通省港湾局のガイドラインを見ると、見直し・改善について、内閣府の事業継続ガイドラインと共通する考え方が確認できます。
並べると共通点が見える
たとえば、人事異動や連絡先の変更を確認し、組織や業務のやり方の変化、外部からの要求、法令の改正などに照らして計画が現状に合っているかを確認するという考え方です。
さらに、想定している事態や被害の見積もり、計画の対象となる事業や拠点の範囲を広げる必要がないかを考える点も共通しています。
業界によって、具体的な項目は変わる
共通する考え方がある一方で、具体的なきっかけは業界によって異なります。
内閣府のガイドラインでは「新しい商品やサービスの提供開始」が挙げられていますが、港湾のガイドラインでは「新規航路の開設」など、港湾業務に合わせた項目になっています。
自社の業界向けのガイドラインがある場合は、それを確認したうえで、共通するBCPの考え方も参考にすると整理しやすくなります。

引き金は、資料に列挙されている
内閣府のガイドラインは、担当者の異動や取引先の変更などによる修正ができているかを確認し、そのうえで拠点や生産ライン、仕事の進め方の変更、新しい商品やサービス、新たな契約、外部からの要請、法律や制度の改正などに照らして、計画が現状に合っているかを確かめるよう求めています。
2段に分けて考える
この内容は、大きく2段に分けて考えると分かりやすくなります。
| 段 | 何をするか | 資料が挙げている出来事 |
|---|---|---|
| 情報を更新する | 担当者や連絡先などを現状に合わせる | 担当者の異動、取引先の変更 |
| 計画が現状に合うか点検する | 計画そのものを問い直す | 拠点・生産ライン・仕事の進め方の変更、新しい商品やサービス、新たな契約、外部からの要請、法律や制度の改正 |
| 取引先側からも点検する | 自社だけでなく、関係する相手側の変化も見る | 取引先の変化や計画発動 |
| 対象範囲を広げる方向から点検する | 想定や計画の範囲を問い直す | 備えている事態の種類、被害の見積もり、計画に入れる事業や拠点の範囲 |
前半は情報を最新の状態に保つ作業で、後半は計画そのものを判断する作業です。ここを分けて考えると、「BCPの見直し」という大きな作業を小さく分けられます。
取引先を巻き込むときの進め方は「サプライチェーンのBCP|取引先と1つの計画を作るとき合意する範囲」に整理しました。
発動しなかったトラブルも引き金になる
見落としやすいのが、計画を発動するほどではなかった出来事です。
停電が短時間で復旧した、システムが半日止まった、大雪で出勤できない人が出た。計画を発動するまでもなく収まった出来事でも、そのとき何に困ったかは、BCPを見直す材料になります。
他社が動いたときも引き金になる
内閣府のガイドラインでは、関係のある他の企業が計画を発動したことも、自社の見直しの機会になり得るとしています。
取引先が被災して計画を動かした。そのとき自社に何の連絡が来て、何が来なかったのか。相手がどう動いたかを確認できれば、自社の計画に足りない部分が見えてくることがあります。
自社が被災しなくても、取引先側で起きた出来事を見直しの材料にできるということです。
訓練そのものにも、引き金が決まっている
内閣府のガイドラインは、教育・訓練を定期的に行うほか、体制の変更や人事異動、採用によって要員が大きく変わったとき、さらに計画の見直し・改善を実施したときにも、教育・訓練を行う考え方を示しています。
見直したら、訓練し直す
計画を直したら、その直した内容で訓練する。これをセットで考えることが重要です。
直した内容が現場に伝わっていなければ、書類の上でだけ新しくなります。当日に動くのは現場の人なので、計画を変更した後は、その変更内容が実際に機能するかを確認する必要があります。
人が大きく入れ替わったとき
採用や異動で要員が大きく変わったときも、訓練や計画を見直すきっかけになります。計画そのものが同じでも、それを知っている人や担当する人が変わっている可能性があるからです。
介護の分野では、研修と訓練の回数が運営基準で定められています。入所系は年2回以上、通所系と訪問系は年1回以上です。ただし、これは介護分野の基準であり、他の業種に同じ回数が義務付けられているわけではありません。
介護分野のBCPについては「介護BCPの義務は3つ|研修・訓練の回数とひな形の使い方」に整理しました。
見直しは、4つの段でできている
内閣府のガイドラインは、「点検・評価」「経営者による見直し」「是正・改善」「継続的改善」という流れで見直しを構成しています。
段ごとに、やることが違う
| 段 | 誰が | 何をするか |
|---|---|---|
| 点検・評価 | 事務局・担当者 | 計画が現状に合っているかを見る。訓練の結果もここに入れる |
| 経営者による見直し | 経営者 | 弱点や積み残しの説明を受け、議論し、早急に手を打つものを指示する |
| 是正・改善 | 担当者・事務局 | 判断を待たずに直せるものは直し、予算や調整が必要なものは計画に載せて進み具合を管理する |
| 継続的改善 | 全体 | 計画が経営の方針に照らして適切か、対象の範囲が妥当かを継続的に評価する |
経営者が判断する段がある
担当者が点検して、直せるところを直す。ここだけで終わらせず、経営者が説明を受けて判断する段までつなげることが重要です。
前回どのような指示をしたか、その後どこまで進んだか、点検や訓練で何が分かったか。そこから弱いところや積み残しを整理し、経営者が判断する必要のある項目を選び出します。
「すぐ直す」と「計画に載せる」を分ける
判断を待たずに直せるものは、その場で片づける。一方、予算を取ったり、調べたり、相手と調整したりする必要があるものは、計画に載せて進み具合を管理する。
この2つを分けることで、すぐに直せるものまで経営判断待ちになってしまうことを防げます。
「直す」だけでなく「広げる」向きもある
内閣府のガイドラインは、備えている事態の種類や被害の見積もりを広げなくてよいか、計画に入れる事業の幅や拠点の範囲を広げなくてよいか、という方向からも確認するよう求めています。
見直し=古いところを直す、ではない
見直しというと、古くなった記述を新しくする作業を思い浮かべます。ですが、資料では対象範囲そのものを広げる方向からの点検も示されています。
地震しか想定していない計画に、水害や感染症、サイバーなどを追加する必要はないか。本社だけを対象にしている計画に、支店や工場を入れる必要はないか。このような問いも、見直しの対象になります。
広げると、最初の年に戻る
対象を広げれば、優先する業務の洗い出しなど、計画の一部を改めて確認する必要が出てきます。
だからこそ、定期的な点検の際に「今年は対象を広げる必要があるか」を議題に入れておくと、検討漏れを防ぎやすくなります。
その年に「今回は広げない」と判断した場合でも、検討したこと自体を記録しておけば、次回の見直しにつなげられます。
資料自身も、改訂されている
厚生労働省の「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」には更新履歴があり、令和2年12月11日の初版に対し、第1.1版が令和6年3月31日に出されています。
何を直したかが書かれている
更新履歴には、直した中身も書かれています。令和3年5月に変更された警戒レベルの呼び名に合わせたこと、防災計画とBCPの違いを説明した箇所に非常災害計画を加えたことなどが記載されています。
外部の制度や情報が変わったので、資料の側も直す。これは企業のBCPで「法令改正」などが見直しのきっかけになるのと同じ考え方です。
手元の資料が最新かを確かめる
BCPの根拠に使っている公的資料が、その後に改訂されていることがあります。数年前に保存したPDFを見て作った計画は、資料の側が更新されている可能性があります。
定期的な点検のときに、使っている資料の版と発行年月を確かめる欄を作っておくと、この抜けを防ぎやすくなります。
4手に分けて片づける
1. 最終更新日と、版の欄を見る
手元のBCPの表紙や奥付を見てください。最終更新がいつか。そして、根拠にしている公的資料の版が書いてあるか。書かれていなければ、まずその欄を作るところからです。
2. 「情報の更新」を先に片づける
まず、人事異動や取引先の変更によって、名前、連絡先、担当者などの情報が古くなっていないか確認します。
ここは比較的すぐにできる作業です。ただし、情報を更新しただけで終わらせず、その変更によってBCPの体制や対応手順まで変える必要がないかも確認してください。
3. この1年の「発動しなかったトラブル」を書き出す
停電、システムの停止、大雪や大雨で出勤できなかった日、取引先の事故。計画を発動するまでもなく収まった出来事を、一定期間分挙げてみてください。
そのとき困ったことや、対応に時間がかかったことがあれば、それが見直しの材料になります。
これは、内閣府のガイドラインが見直しのきっかけとして示している考え方にもつながります。
4. 点検の日を決めて、経営者の時間を押さえる
いつ見直すかが決まっていない計画は、後回しになりやすくなります。訓練の日でも、期首でも、自社で続けやすいタイミングを決めてください。
そして、その日のうちに経営者が説明を受ける時間まで確保しておくと、判断が必要な項目を積み残しにしにくくなります。
今日やることを1つに絞るなら、まずは定期的な点検日をカレンダーに入れ、同じ日に経営者への報告時間を確保してください。
よくある質問
Q. BCPはどのくらいの頻度で見直せばよいですか
A. 全業種に共通する見直し回数は、今回確認した内閣府、厚生労働省、経済産業省・IPA、国土交通省港湾局の資料には示されていません。代わりに、人事異動や取引先の変更、業務の変更、法令や制度の改正、訓練で見つかった課題など、見直しのきっかけが挙げられています。自社で定期的な点検日を設定し、その間にも大きな変化があれば随時見直すという方法が考えられます。
Q. 何をきっかけに見直せばよいですか
A. 内閣府のガイドラインは、担当者の異動、取引先の変更、拠点や生産ラインの変更、新しい商品やサービスの開始、新たな契約、外部からの要請、法律や制度の改正などを挙げています。加えて、計画を発動するほどではない日常のトラブルや、関係のある他の企業が計画を発動したことも、見直しの機会になり得るとしています。
Q. 見直しは計画のどこに位置づけられますか
A. 内閣府の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)では、計画の策定にBCP本体、事前対策、教育・訓練と並んで、見直し・改善の実施計画が含まれます。国土交通省港湾局のガイドライン(令和7年6月改訂)でも、マネジメント計画の中に見直し・改善が位置付けられています。
Q. 見直しは誰が決めるのですか
A. 内閣府のガイドラインは、点検・評価、経営者による見直し、是正・改善、継続的改善という流れを示しています。点検で見つかった課題を整理したうえで、経営者が説明を受け、必要な改善について判断することが求められています。一方、経営判断を待たずに直せる実務的な項目は、先に修正する考え方も示されています。
出典
- 内閣府(防災担当)『事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-』(令和5年3月)
- 厚生労働省『介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン』(第1.1版・令和6年3月31日)
- 経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構『サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0』(令和5年3月公表)
- 国土交通省港湾局『港湾の事業継続計画策定ガイドライン(港湾BCP策定ガイドライン)(改訂版)』(令和7年6月)
